12悪夢ふたたび綾波はるかがやって来る!
「龍さん、3人と見合いしてどうだったざンすか?」
と、せっかちな緑子叔母さんからの電話で、昼過ぎに叩き起こされた龍さんが黒電話の受話器を握る。
「すみません叔母さん、昨日、食中毒になって調子がすぐれないんです」
と、簡単に、電話を切ろうとしたのだが、
「ちょっと、おまちなさい、龍太郎。わたしも、先方へのお返事をしなくちゃいけない責任があるざンすから、誰の印象がどうだったぐらいは教えなさい」
(うへっ! めんどくさい話だ)
龍さんは、電波が悪いフリして、切ろうとするのだが、さすがは、緑子叔母さん、龍さんの性格をよくわきまえていて、今日に限って家電、黒電話で切らせない。
「ちょいと、龍太郎聞いてるざンすか? ちゃんと、誰がどうとか感想を聞かせなさい」
(耳が痛い)
「そうだな、まずは、東京の阪急百貨店で会った広瀬亜紀さん。彼女は、若くて現代の先端の感性で目先が利いて非の打ちどころのない女性だな、性格も明るくて、可憐な真っ白な花弁のデイジーのような美しい女性だな」
「うん、白のデイジーざンすか、可憐な印象ね。伊集院ふみさんの印象はどうかしら?」
「伊集院ふみさんか、彼女の印象はとてもしっかりした女性だったな。職業も看護師なだけあって、病気のケアの知識もあって、男のオレが言うのもなんだけど頼りになる。性格は、心の奥に熱く燃える情熱のような物を感じたな。花に例えるなら、そうだな、情熱の赤のガーベラってところかな」
「そうね、龍之介は甲斐性無しで頼りないから、ふみさんのように引っ張ってくれる女性がいいかもしれないわね。最後は、綾波はるかさんはどうかしらん?」
「彼女はない! もう、お断りして構いません!!」
「お断りって、何かあったの龍太郎?」
「なにかあったのって、彼女のせいで食中毒になるわ踏んだり蹴ったりで、性格も杓子定規で計ったようにきっちりしすぎていて息がつまります。彼女の印象は最悪です!」
「一応、花に例える印象もきいておこうかしらん?」
「彼女は、メキシコの荒野に一人で立つサボテンです。彼女は一人で生きていける。いいや、彼女は一人でないと生きていけない強い女性です。絶対に、お断りしてください。二度と、会いたくありません」
「そうかい、それは困ったねぇ」
「それは困ったってどうしたんですか」
「実はね、学校の昼休みに、その綾波はるかさんから電話があってね、龍太郎、あんたに、是非、もう一度会いたいってんで、あんたの住所を教えちゃったんだよ」
「ええっ!」
「教えてしまったものは仕方ないからさ、すまないけど龍太郎、今日の午後、学校を早めに切り上げて、尼崎のあんたの家へ来るってことだから、よろしく――」
「って、緑子叔母さん困ります! ……電話、もう、切れてる……」
(絶対、彼女は最悪だよ。どうせ断るんだし、茉奈にも会わせたくないよ、どうしたものか……)
PM17:00――。
「ただいま~、龍さん。(帰ってきた茉奈の足元に、ワガハイがやってきてゴロンと横になる)ただいま~ワガハイ」
茉奈は横になったワガハイのお腹をこそばす。ワガハイは、身をかわすように体をよじって身をかわしているが、茉奈が少ししつこくこそばすものだから、仕舞には、前足で茉奈の手を掴んで甘噛みする素振りだ。
それでも、茉奈は、ワガハイがかわいいものだから、こちょこちょ、こちょこちょと、遊んでいる。
「おう、お帰り茉奈、学校どうだった?」
「おはよう龍さん! 今日は朝帰りだったわね?」
「おいおい、茉奈、お父さんをイジメるな。お前、朝、食中毒ヨレヨレのオレを見ただろ、あんなに体調悪いのオレの人生でも空前絶後だぞ」
「うふふ、でも、朝帰りは朝帰りだもん。こんどワタシも、友達の佳奈の家へ泊~まろっと」
龍さんは、クイッと、メガネをあげて、真剣に、
「それは許さん!」
「え~だって、龍さんも朝帰りしたんじゃない。青春真っ盛りの女子高生が友達と熱く語りあかしてもいいじゃない」
「ダメだ。それとこれは話が違う。茉奈、お前に万が一、そこで不測の事態が起こったら、お父さんは亡くなった文さんに、どうやって詫びればいいんだ。茉奈、頼むからお父さんを悩ませないでくれ」
茉奈は、ワガハイを抱き上げて、鼻と鼻をくっつけて挨拶。
「ワガハイ、龍さん、勝手なことばっかり言ってるどうしようかな?」
ワガハイは真っすぐ茉奈を見つめて「にゃ~ご」と鳴いた。
「あ、ワガハイ、あなたはおやつのちゅ~るが欲しいのね。まったく、ワガハイは食べることばっかりなんだからあはは」
と、茉奈は、それ以上、龍さんを責めるわけでもなく、自分の思いを貫くわけでもなく、ただ、ぼんやりと茶を濁したまま、ワガハイと遊んでいる。
龍さんが、その様子を微笑みながら見守っていると、「プルル、プルル……」と、スマホが鳴った。
(アッ! 綾波はるかだ!)
「もしもし、茶川です。え? 尼崎に着いた?! なに、JR尼崎?! そこは確かに尼崎ですけど、わたしの住んでる尼崎は、阪神尼崎です。ええ、J尼から歩いてくる?! いやいやいや、無理です。そこから、歩くと20分はかかります。バスが出てるので、来るならそれで来てください」
ワガハイと遊んでいる茉奈が、電話の様子に興味を見せて尋ねた。
「誰か、来るの?」
「ああ、変人の見合い相手、綾波はるかさんだ」
つづく




