第五話 浮遊魔獣『フュード』
能力測定後、一度状況整理のため、迷宮を一度出る。
道中、どこか気まずい空気が流れていたが、その時ジンの口が開く。
「シンリくん、いろいろと聞きたいこと、言いたいことはあるが一番は、、」
「コイツですか?」
っとフワフワと浮遊している可愛い魔獣を優しくハグする。胸元に抱きついたそいつは、ひんやりとしていて、まるで上質なマシュマロのように柔らかい。小さな眼をパチパチと瞬かせながら、俺の腕の中で気持ち良さそうに身を委ねていた。
「そいつは『浮遊魔獣“フュード”』だ」
「こいつ危険なんですか?」
「フュードはごく稀に迷宮に現れる、能力“透明化”で襲ってきて首筋を裂く凶悪魔獣だ」
「えぇ?!」
こんな可愛いふわふわしたやつが?そんなことないと思い、ジンにフュード(仮)のステータスの確認を頼む。
「まあいいけど、、“能力測定”」
そう唱えると、フュード(仮)のステータスが、ジンの持つ魔法書のページに、再び淡い光の文字が紡がれていく。俺はフュード(仮)を腕に抱えたまま、ジンの手元を覗き込んだ。
体力:20 攻撃力:10 防御力:10
運:350 魔力:75 能力:透明化
主人:ヒヨリ・シンリ 名前:フュード
確かにジンの言った通り透明化という能力を持っていた、体力や攻撃力は、さっきジンが言っていた『首筋を裂く凶悪魔獣』のそれとは到底思えないほどに貧弱だった。生まれたての雛レベルだ。これなら俺でも勝てる。だが、そんな戦闘能力の低さを完全に過去の遺物にするような、狂った数値がそこには刻まれていた。
「「運350?!」」
俺とジンの驚愕の声が、綺麗に重なって周囲に響き渡った。この世界の平均がどれくらいかは知らないが、俺の『3』という数値に比べたら、文字通り桁が二つも違う。この世界そのものの確率論をねじ曲げかねないほどの圧倒的な強運。それが、この頼りないほどフワフワした俺の最初の相棒の、本当の正体だった。
そしてもう一つ『主人“ヒヨリ・シンリ”』、、、
そういえばさっきの俺の能力測定にも従魔の欄にフュードと書いてあったことを思い出す
「なぁジンこの主人って?どーいう、、」
「従魔契約した魔獣にしかでないものだ、、ということは」
俺はフュード(仮)を見つめる。
「俺こいつといつのまにか従魔契約してたってこと?」
頭の中が急速に混乱していく。死にかけていた時、本の光に包まれて助かったと思えば、目が覚めたら強制的に従魔契約。本当に、一体何が起きているんだ?
「一番まずいのは、従魔契約は普通組合を介してしか行えないものだということだ」
組合という言葉に男心がくすぐられながらも、自分がとんでもなく不可能なことを成し遂げている事実に気づき、思わず驚愕してしまった。
「まぁ、国にバレたら処刑ものだがな」
「処刑っ!?」
「大丈夫、フュードの能力透明化を使えば早々バレることはないだろ」
ジンの言葉に、俺は少しだけホッと胸をなでおろした。それから、足元でじっとこちらを見上げてくる魔獣――フュード(仮)に視線を落とす。
「、、、あ、そうだ。いつまでもフュードって呼ぶわけにもいかないよな。一応、俺が『主人』になったわけだし」
フュード(仮)のステータス画面には、まだ種族名のフュードが表示されているだけだ。俺がそう呟くと、その魔獣はまるで言葉を理解しているかのように、期待に満ちた目で短い鳴き声をあげた。
「ジン、従魔には名前をつけてもいいんだよな?」
「ああ、もちろんだ。むしろつけるのが普通だな、それに名付けは魔獣との繋がりが強くなり、能力が向上することもあるらしい」
「へえ、名付けでパワーアップか、、」
漫画やゲームでみたものと同じで再び男心がくすぐられる。
「ただその前にもう一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」
フュード(仮)の新しい名前をあれこれと考えながら、俺は「いいよ」と頷いた。
「まずシンリくん君が持っていた、あの本は魔法書でね、それも、現代では使用不可能とされている禁断の魔法書だったんだよ 」
(なるほど、どうりで助かったわけだ、、、)
合点がいった。あの絶望的な状況を生き延びられた理由が、ようやく分かった。
「なんで使用できるのかも気になるけど、、それよりもなんで使う状態になったのか」
ジンの目が、すっと鋭い剣士のそれに変わる。旅人を自称するこの和服の男が、なぜそこまでに禁断の魔法書詳しいのかは分からない。だが、ジンにとって「シンリがそれを起動させた理由」は、どうしても聞き捨てならない重大な事実のようだった。
「使おう」と思って使ったわけじゃないんだけどな。内心でそう苦笑しつつ、俺は迷宮の最下層で殺されかけた一部始終を話し始めた。
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俺が迷宮の最下層で、謎の男に殺されかけた話を伝えると、ジンは押し黙り、深くため息をついた。
「なるほど、シンリくん、君は自分が誰と戦ったのか、本当に分かっていないようだね」
「え? いや、とにかくやばい男だったのは覚えてるけど、、、」
「君を襲ったのはね、この世界で最強と定義されている人型魔獣――『五大神獣』の一角だよ」
ジンの口から『五大神獣』という言葉がでた瞬間、空気が一瞬で張り詰める。そのプレッシャーに、俺の肌がビリビリと粟立った。思い出すのは、あの完璧なまでに端正で、冷徹だった銀のコートの男の顔。人間を遥かに超越した、生ける天災そのもの。そんな存在が、あの地下の書斎のような場所に鎮座していたのだ。
「そんな神話級の化け物を前にして、よく生還できたね、本当によく生きていたよ、、」
「禁断の魔法書が助けてくれたんだよ」
そう告げると、ジンは何を言っているんだと言わんばかりの、怪訝な顔をして眉をひそめた。
「禁断の魔法書は確かに、大昔には神の意思が宿った本だと言われていた。だけどね、今の魔術技術では、それがただの神話に過ぎないってことはもう証明されてるよ」
その言葉に、俺は頭を抱えたくなった。
(なら、あの沖縄のような青い海と空が広がる場所はなんだったんだ? あの不思議な女の人は、一体誰なんだよ、、、)
「シンリくん君はもしかしたら、異常な魔力量でゴリ押しで禁断の魔法書を使用したのかもしれない」
ついに自分にも特別な力がある可能性がでできたという事実に少し嬉しく思った。しかし、どうやって魔力とやらを使用するのかと思い悩んで、二人で話しながら歩いていたせいで、すっかり足元に気が回っていなかったらしい。気づけば俺たちはすでに街の入り口まで辿り着いており、見上げた空は、ぽつぽつと星が瞬き始める群青色に染まっていた。
その後、俺たちは宿へ行くがお互いにお金がないことに気づき、
――俺たちの野宿が確定した。




