第二話 異世界(新たなる地)
異世界に来たという事実について小一時間考えたが、動かない限り何も始まらないと思い、
立ち上がり砂漠を歩いていると途中から床が石畳のようなものに変わっていく。
石畳(?)の道を歩きながら、俺――真黎は、街へと進む。
近づくにつれて、木材を乱雑に継ぎ接ぎした外壁の全貌が明らかになっていく。どこか荒々しくも、確かな人の営みを感じさせるその門をくぐり抜けると、砂漠の静寂が嘘のような喧騒が俺の鼓膜を叩いた。
街に着くと、街には漫画やアニメで見るような、頭の上にピンと尖った茶色い耳を生やし、お尻から立派な尻尾をのぞかせた男だった。人間より一回り大きい体躯で、背中には巨大な荷車を軽々と背負っている。犬の獣人がいた。
「おぉ」
思わず声が漏れる
(マジでいるんだなぁ)
他に色々と見て回る、飛び交う物売りの声。漂う美味そうな焼き肉の香ばしい匂い。中世ヨーロッパみたいな雰囲気の街だなと思いながら奥へ進む。すれ違う人々は、誰もが現実世界には存在しない特徴を持っていた。鳥の翼を背負った者、肌が青い者。レンガ調の建物が並ぶ通りには、見たこともない果物や怪しげな鉱石が露店に並べられている。本物の「異世界」を五感で引き受けながら歩を進めていたが、ふと、胃袋が悲鳴を上げた瞬間に重要な事実に気がつく。
「金がねぇ!!」
久々に大声で叫んだ。いやそれよりもお金の問題だ。
(財布から日本円の100円を出す)
指先でつまみ上げたのは、桜のデザインが施された見慣れた銀色の硬貨。平成だの令和だのの刻印が入ったこれが、この世界で通用するわけがない。異世界の通貨はどう考えても、、、
(これ絶対払えないよな?!)
っと心の底で叫びながら、お金について悩んでいると一つの答えに辿り着く。
(しゃーない話しかけてみるか、、、)
言葉が通じるかどうかも賭けだった。だが、背に腹は代えられない。俺は一番良い匂いを漂わせている露店へと近づき、意を決して声をかけた。
「あのーすみませんこの串焼き一本何円ですか?」
試しに串焼き屋の馬みたいな獣人に話しかけてみる。
「あぁこれは一本銀貨1枚だよ〜買うかい?」
馬の獣人は、立派なたてがみを揺らしながら、豪快な笑みを浮かべてタレの滴る肉を掲げてみせた。言葉が完璧に通じた喜びと、やっぱり手元のお金がゴミ同然であるという現実が同時に押し寄せる。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
ーーーーーーーーーー
そして少し街をブラブラと一人で散歩したのちにいろいろわかったことがある。
まず一つにこの世界のお金についてだ。
銅貨は約10円、銀貨は約100円、金貨は約1000円、そして大金貨は約1万円の価値らしい
(比較的わかりやすくて助かるな)
そしてもう一つが現在地についてだ。
どうやらここは“ヴァンラズ大陸”の最も武器と迷宮がある都市『ラズマ』というところらしい。
(この後どうするべきだろうか、お金はどうやって稼ごうか)
などを考えていると、犬のような人と蛙のような小さな獣人に話しかけられる。
「おいお前珍しい服着てんな」
「お金だしぇや」
異世界あるあるなのかハプニングが発生した。確かによく考えたら他の獣人たちは大きなフード付きのポンチョのような服を着ていた。対して自分は――学校の制服、、、
(そりゃ目立つな)
っと一人で頷き納得していると蛙のような獣人に
「何ふざけてんしゃ?」
っと下から睨まれるように言われる。ぬらりとした緑色の肌をした蛙の獣人は、小柄ながらもその目は完全に獲物を品定めする悪党のそれだった。周囲の通行人たちは、俺たちの様子に気づきながらも、関わり合いを恐れるように足早に通り過ぎていく。現実世界の放課後とはまた違う、本物の『誰も助けてくれない冷たさ』がそこにはあった。
(これはまずい!絶対事件に巻き込まれる!)
っと思いダッシュで逃走しようとすると
「どこにいく?」
っと犬の獣人が目の前に立ちはだかる。鋭い牙を覗かせた大きな顎が、目の前で不敵に歪む。完全に退路を断たれた。力ずくで突破できる体格差じゃない。冷や汗が背中を伝う中、俺の脳裏に、異世界もののお約束がフラッシュバックした。そうだ、俺にだって何かすごい能力があるはずだ。
(しゃーない俺もこの世界での能力を発動させるとしますか!)
「いでよ炎ぉぉ!!」
、、、、何も起きない
静まり返る路地裏。ただ自分の大声だけが乾いた木造の壁に虚しく反響する。右腕が光り、手のひらが熱くなるみたいな感覚は、微塵もなかった。
「何ふざけてるんしゃっ!」
っと蛙のような男の蹴りが鳩尾に入る
小さな体からは想像もつかない硬く重い衝撃が、容赦なく俺の腹部をぶち抜いた。肺の中の空気が一瞬で引きずり出され、視界がぐにゃりと歪む。俺は言葉にならない悲鳴を上げながら、石畳の上へと無様に崩れ落ちた。
ーーーーーーーーーー
ボコボコに殴られた。相手は俺が何も持ってないことに気づくと飽きたのか最後に一蹴りして帰って行った。
(俺もしかして能力なし?)
などを考えながら歩いていると街を抜け、新しい砂漠の広大な景色が目に飛び込んでくる。腫れ上がった顔の痛みに耐え、引きずるような足取りで街の外へと逃れるように歩く。中世ヨーロッパ風の活気あふれる街並みは、一歩外に出れば冷酷な砂の海に囲まれた孤島に過ぎなかった。痛む脇腹をさすりながら、俺は自分の無力さにただ唇を噛んだ。
(異世界転生ボーナスなんて、やっぱり夢のまた夢だったのだろうか。)
近くに廃れた小屋みたいなものがあった。ふと見上げると、あれほど鮮やかだった青空が、段々と茜色から薄暗い紫へと染まり始めていた。街灯のない異世界の夜は、想像以上に暗い。太陽が地平線の彼方へ沈んだ瞬間、世界から一切の光が奪われた。現実世界の夜なら、街灯や車のライト、コンビニの看板がどこかにある。しかし、ここにはそれがない。ただただ濃密で、底の知れない漆黒が砂漠を支配していく。迫り来る寒気と夜への恐怖から逃れるように、俺は目の前のボロ小屋へと這うようにして近づいた。
(しょうがない少し借りてここで寝るとするか)
そして小屋の目の前で何があるかと探索しようとすると、足元の砂が、妙に軽くなった気がした。
ズルッ
ズルズルズルッ
凄まじい勢いで地面が沈下していく。必死に何かを掴もうと両手を伸ばしたが、掴めるものは何ひとつなく、ただ虚しく空を切るだけだった。
「うわあぁぁぁぁぁ」
(なんだ?アリ地獄!?ってかこの下って何があるんだ!?これ死、、、、)
濁流のごとき砂が容赦なく身体を打ち付け、視界が茶色く染まる。ずるずると、奈落の底へ引きずり込まれるような感覚。重力に逆らう術はなく、体はどんどん加速しながら深い闇の奥底へと吸い込まれていく。耳の奥で、砂が擦れ合うゴォォォという轟音が鳴り響いていた。
ーーーーーーーーーー
容赦なく吸い込まれた砂の激流が途切れた瞬間、俺は書斎のような場所に落ちていた。
「う、痛てて、、」
そこは書斎というよりも、血の褪せたような革装丁の書物が乱雑に積み上げられた道が、続く地下迷宮のような場所だった。見上げる天井は遥か高く、自分が落ちてきたはずの穴は、すでに大量の砂で完全に塞がっている。周囲の空気はひんやりと冷たく、カビと古い紙の匂いが鼻を突いた。壁の至る所に埋め込まれた不気味な青い鉱石が、頼りない光で周囲の「本の山」を照らし出している。
「ここって、、?」
どうやら二日程気絶していたらしい。頭は割れるように痛く、喉はカラカラに乾ききっている。俺の腹は異常なほどに飢餓感を訴えていた。すり足で這うように歩き、山積みにされた書物の隙間を進んでいく。
(なんかこれ他の本と違うな、、、)
表紙にデカい星のマークが描かれた一冊の本が目が留まり、思わず手にとった。謎の違和感を感じていたその時
「おい!誰だ!そこで何をしてる!」
話しかけられた。冷たい石の床から響いてきたのは、若い男の声だった。救いの手か、それとも新たな脅威か。振り返ろうとした俺の身体は、すでに自分のものではないように重かった。限界を迎えていた胃袋が激しく痙攣する。当たり前だろう約丸二日何も食べていなかったのだから。
(バタッ)
空腹でもう立てなくなりその場で倒れる。男が何か言っているが、聞き取れずに意識が遠のいていく。視界が急速に狭まり、光の消えかけた意識の底で、男の足音がこちらへ駆けてくるのを感じた。手放しかけた指先には、あの星のマークの本が、まだしっかりと握りしめられたままだった。
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俺――は、この迷宮に潜って約五日間探索していた。
「奥に誰かいるのか?」
少し進むと珍しい服装の同い年ぐらいの男が本を漁っていた
「おい!誰だ!そこで何をしてる!」
っと少し威嚇してみると腹が減っていたのか、何か話そうとして、その場で倒れた。
「お、おい!大丈夫か!」
少しからかい過ぎたかもと思い、男が俺の元へ駆け寄る。




