第六章 第1話 帰郷と変化
道が、
続いている。
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車輪の音が、
一定に響く。
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馬車は、
揺れていた。
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
前を見ている。
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リーネが、
外を覗く。
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「……見えてきた」
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小さく。
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遠くに、
村がある。
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木柵。
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見慣れた入口。
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クベルハイム。
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「戻ってきたね」
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柔らかく。
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ジョーが、
短く答える。
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「ああ」
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それだけ。
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だが、
十分だった。
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入口。
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簡素な見張り台。
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そこにいた男が、
顔を上げる。
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一瞬。
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目を細める。
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そして。
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「……おい」
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中へ声を飛ばす。
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「戻ってきたぞ!」
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ざわつき。
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柵の門が、
開く。
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馬車が、
中へ入る。
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村の空気。
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変わらない。
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だが、
どこか違う。
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吐いた息が、
白くほどけた。
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「……帰ってきたな」
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ジョーが、
小さく呟く。
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その時。
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遠くから、
声が飛ぶ。
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「おい!!」
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大きな声。
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振り向く。
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走ってくる影。
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ダン。
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息を切らしながら、
止まる。
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「お前ら……!」
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一拍。
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顔を上げる。
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「向こうでは、随分とやってくれたみたいだな」
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誇らしげに、
笑う。
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「馬車より早く知らせが来てたぞ」
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一拍。
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「領主からな」
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言葉を置く。
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その目は、
まっすぐだった。
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「さすがだな」
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言葉は軽い。
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だが、
重い。
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その後ろから、
ゆっくり歩いてくる。
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トール。
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その背後に、
一人の少年。
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首輪。
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距離は、
一定に保たれている。
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視線は低く、
だが、
逃げてはいない。
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さらに。
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ガルド。
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その背後には、
獣人の女。
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同じく、
首輪。
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静かに、
付き従っている。
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ガルドが、
軽く顎を上げる。
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「戻ったか」
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短く。
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トールが、
腕を組む。
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「遅かったな」
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低く。
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変わらない声。
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ガルドが、
静かに頷く。
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「無事で何よりだ」
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それだけ。
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ジョーが、
三人を見る。
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その後ろの、
二人も含めて。
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一瞬。
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間。
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「……ああ」
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それだけ。
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だが、
それで伝わる。
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リーネが、
少しだけ笑う。
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視線は、
少年と、
獣人へ。
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だが、
何も言わない。
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顔を上げる。
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「ただいま」
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自然に、
言葉が出る。
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ダンが、
強く頷く。
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「おう」
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短く。
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「おかえり」
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その一言で。
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すべてが、
戻ってきた。
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ダンの家。
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戸の隙間から入る風が、
肌に刺さる。
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以前より、
広くなっている。
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壁が増え、
奥に、
もう一部屋。
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その一角には、
机と椅子。
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簡素だが、
整えられている。
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自警団の詰所も、
兼ねていた。
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その中。
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ジョーたちが、
座っている。
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ダン。
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トール。
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ガルド。
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それぞれが、
向かい合う。
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一拍。
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ダンが、
口を開く。
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「まずは現状だな」
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腕を組む。
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「人は増えた」
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短く。
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「合併した分、そのままな」
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ジョーが、
黙って聞く。
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ダンが、
続ける。
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「信仰は同じだ」
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一拍。
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「泉の守り神な」
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リーネが、
小さく頷く。
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そこに違いはない。
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だが。
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ダンの表情が、
わずかに曇る。
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「問題は、その先だ」
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短く。
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トールが、
口を開く。
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「火に対する考え」
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静かに。
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「ジョーが教えたものだ」
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一拍。
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「我々が教えなければならない」
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言い切る。
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
視線を向ける。
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トールが、
続ける。
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「ここにないもの、何だ?」
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一拍。
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「このなぞなぞは」
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静かに。
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「危険予知だ」
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言葉を置く。
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「だが」
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一拍。
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「意味を理解していない」
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ダンが、
息を吐く。
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「覚えてるだけだな」
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短く。
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ガルドが、
鼻で笑う。
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「それじゃ足りねぇ」
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一言。
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空気が、
少し重くなる。
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ダンが、
続ける。
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「それともう一つ」
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一拍。
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「食いもんだ」
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言葉が、
落ちる。
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ジョーが、
目を細める。
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「不足してるか」
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短く。
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ダンが、
頷く。
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「ああ」
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一拍。
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「今はガルドと奴隷に任せてる」
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ガルドが、
腕を組む。
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「回ってはいる」
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低く。
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「だがな」
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一拍。
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「任せたら任せたで」
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視線が、
横に流れる。
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「何もしなくても食えると思ってる」
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言い切る。
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リーネが、
わずかに顔をしかめる。
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ダンが、
苦く笑う。
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「協力するって考えがねぇ」
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短く。
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「最初からな」
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ジョーが、
静かに聞く。
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「理由は」
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一言。
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ダンが、
答える。
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「元の村だ」
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一拍。
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「村長は強かった」
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「名もあった」
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短く。
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「だが、それだけだ」
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空気が、
少し冷える。
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「後は何もしてねぇ」
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一拍。
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「税で全部賄ってた」
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ガルドが、
低く言う。
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「働かなくても食えたってことか」
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ダンが、
頷く。
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「ああ」
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一拍。
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「働く奴は出ていった」
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「残ったのは」
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言葉を切る。
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「何もしねぇ連中だ」
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沈黙。
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重い。
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だが、
現実だった。
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ジョーが、
ゆっくりと息を吐く。
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「……なるほどな」
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短く。
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それだけ。
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だが。
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理解はしている。
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火は、
まだ見えていない。
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だが、
確実にある。
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ここに。




