第六章 第2話 問答
森の奥。
---
泉。
---
静かだ。
---
風も、
音も、
止まっている。
---
水面だけが、
わずかに揺れる。
---
リーネが、
小さく息を吐く。
---
「……やっぱり、ここは違うね」
---
ジョーは、
答えない。
---
ただ、
泉を見る。
---
何を言うべきか、
考える。
---
だが。
---
言葉が、
出てこない。
---
説明じゃない。
---
そう思う。
---
ふと、
思い出す。
---
消防団。
---
地域の行事。
---
小さくても立派な神社。
---
集まる町会の面々。
---
町会の要請で選抜され、
慣れずとも暗記した、
あの時の事を。
---
泉を見る。
---
「……水は……あるな」
---
小さく呟く。
---
だが。
---
手水は無い。
---
一瞬、
迷う。
---
それでも。
---
そっと、
手を水に触れさせる。
---
冷たい。
---
だが、
それでいい気がした。
---
「……確か、こうだったな」
---
小さく、
呟く。
---
一歩、
前へ出る。
---
息を整える。
---
そして。
---
「祓え給い、きよめたまえ、神ながらまもりたまい、さきわえたまえ」
---
一拍。
---
「かしこみかしこみも申す」
---
沈黙。
---
その後。
---
「……ああ、そうだ」
---
小さく、
思い出す。
---
二礼。
---
静かに、
二度、頭を下げる。
---
二拍。
---
乾いた音が、
泉に響く。
---
一瞬、
間を置く。
---
顔を上げる。
---
「……ヴァルデンでの件は」
---
一拍。
---
「一応、収まった」
---
短く。
---
「だが」
---
言葉が、
重くなる。
---
「犠牲は出た」
---
風が、
わずかに揺れる。
---
ジョーは、
視線を落とさない。
---
「この世界の神と」
---
一拍。
---
「俺のいた世界の神の違いは、わからない」
---
静かに。
---
言う。
---
「だが」
---
一拍。
---
「この世界の神職が、亡くなった」
---
言葉を置く。
---
「どうか」
---
小さく。
---
だが、
はっきりと。
---
「彼らの旅立った先では、幸福を」
---
沈黙。
---
祈り。
---
そのまま、
最後に。
---
一礼。
---
深く、
頭を下げる。
---
静寂。
---
水面が、
揺れる。
---
「……別世界の祈りだね」
---
一拍。
---
「珍しい」
---
静かに。
---
水の奥から、
響く。
---
守り神。
---
「嫌いじゃない」
---
空気が、
わずかに変わる。
---
静寂。
---
そして。
---
「……君はなぜ、火を憎む?」
---
問い。
---
逃げ場はない。
---
ジョーは、
すぐには答えない。
---
わずかに、
息を吐く。
---
「……憎んでるわけじゃない」
---
短く。
---
「火は、必要なもんだ」
---
一拍。
---
「正しく扱えば」
---
「人を助ける」
---
だが。
---
「扱いを誤れば、一気に表情を変える」
---
言葉が、
落ちる。
---
「その結果」
---
「死ぬ人間も出る」
---
静かに。
---
「死んだ奴にも、家族がいる」
---
沈黙。
---
守り神の声。
---
「……それは」
---
一拍。
---
「火の罪か、人の罪か」
---
ジョーは、
目を逸らさない。
---
「……どっちでもない」
---
短く。
---
「火は、ただ燃えるだけだ」
---
一拍。
---
「燃えるものがあって」
---
「空気があって」
---
「熱がある」
---
静かに、
並べる。
---
「それが揃えば、燃える」
---
それだけだと、
言うように。
---
「人も同じだ」
---
一拍。
---
「それを知らないか」
---
「分かってて無視するか」
---
「結果は変わらない」
---
短く。
---
「だから」
---
一拍。
---
「罪はない」
---
静かに。
---
「ただ」
---
「起きるだけだ」
---
沈黙。
---
守り神が、
言葉を落とす。
---
「……説いたところで」
---
一拍。
---
「守れぬ者も出てくる」
---
水面が、
揺れる。
---
「その時」
---
短く。
---
「どうする」
---
ジョーは、
迷わない。
---
「……だからこそだ」
---
一拍。
---
「俺一人じゃ足りない」
---
「教えるだけでも足りない」
---
「だから」
---
一拍。
---
「仕組みを作る」
---
短く。
---
「動ける奴を集めて」
---
「備える」
---
「火は、待ってくれない」
---
一拍。
---
「なら、こっちが待つ」
---
静かに。
---
「来る前提でな」
---
そして。
---
「だからこその自警団だ」
---
一拍。
---
「今は、まだな」
---
沈黙。
---
守り神は、
しばらく何も言わない。
---
ただ、
見ている。
---
そして。
---
「……面白い」
---
小さく、
響いた。
---
一拍。
---
「試してみよ」
---
静かに。
---
水の奥で、
何かが揺れた。
---
波紋が、
ゆっくりと広がる。
---
それは、
合図のようでもあった。




