第五章 第14話 焼け跡
壊す。
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壊し続ける。
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燃える前に。
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火が来る前に。
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家を崩す。
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道を作る。
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燃える物を、
断つ。
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やがて。
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火の進みが、
鈍る。
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「止まった!」
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誰かが叫ぶ。
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「もう燃えないぞ!」
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あちこちから、
声が上がる。
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だが。
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ジョーは、
首を振る。
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「まだだ!」
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強く。
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「まだ燃えている!」
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延焼は、
止まった。
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だが、
火は残っている。
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煙も。
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熱も。
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その時。
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背後から声。
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「待たせたな!」
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振り返る。
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ヴァルデン自警団。
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町人たち。
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桶。
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列。
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町中の井戸から、
水が繋がっている。
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限りある井戸。
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その全てから。
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スラム街へ。
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水が、
運ばれる。
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撒かれる。
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火へ。
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煙へ。
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何度も。
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何度も。
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やがて。
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炎が、
弱まる。
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煙が、
薄くなる。
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最後の火が、
消える。
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静寂。
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一拍。
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そして。
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歓声が、
上がる。
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助かった。
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止めた。
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町が、
沸く。
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だが。
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ジョーは、
笑わない。
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焼け跡へ、
歩く。
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一軒。
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また一軒。
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焼け残った家を、
見ていく。
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まだ熱い。
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焦げた匂い。
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湿った灰。
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奥まった、
一軒。
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隙間。
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そこに、
見えた。
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赤黒くなった、
足。
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「……っ!」
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ジョーが、
立ち止まる。
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声が、
出ない。
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助けられなかった。
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どんな思いで、
そこにいたのか。
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逃げようとしたのか。
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誰かを、
呼んだのか。
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脳裏に、
よぎる。
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あの時の、
クローゼット。
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閉じ込められた、
小さな命。
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呼吸を、
整える。
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無理やり。
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そして。
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近くの自警団員に、
低く言う。
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「……毛布を」
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一拍。
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「それと……この人の家族を」
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自警団員が、
何も言わず頷く。
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時間が、
過ぎる。
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歓声は、
消えていた。
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自警団。
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町人。
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スラムの住人。
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誰もが、
動く。
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被害者。
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けが人。
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燃え残り。
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残材。
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分けられていく。
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数が、
出る。
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スラム街住人。
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三百十六名。
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犠牲者、
五十三名。
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町人。
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千九百七十八名。
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犠牲者、
十六名。
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自警団。
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五十三名。
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犠牲者、
三名。
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合計。
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七十二名。
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町は、
静まり返っていた。
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誰も、
勝ったとは言わなかった。
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誰も、
助かったとは言えなかった。
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ただ。
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煙の匂いだけが、
残っていた。




