第五章 第13話 煙と炎
煙。
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細い。
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だが、
途切れない。
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町の一画。
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ジョーが、
足を止める。
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一瞬で、
見切る。
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「火だ」
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短く。
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走る。
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現場。
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石造りの建物。
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窓の奥で、
炎が揺れる。
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同時に、
煙。
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黒く、
濃い。
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外へ、
吐き出される。
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「窓から水を!」
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ジョーが叫ぶ。
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「天井に当てろ!」
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煙の、
唯一の逃げ道。
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だが、
低い。
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煙は、
人の高さに溜まる。
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「吸うな!」
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「しゃがめ!」
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短く。
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天井から、
滴る水。
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蒸気が、
立つ。
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わずかに、
薄まる。
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桶が回る。
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水が届く。
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抑える。
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弱まる。
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消える。
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鎮まる。
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被害者は、
いない。
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安堵。
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空気が、
緩む。
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「煙突が要る理由だ」
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ベルンハルト。
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「勝手口も要るな」
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その時。
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「あっちにも煙が!」
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振り返る。
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遠く。
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太い煙。
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黒い。
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違う。
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ジョーの目が、
細くなる。
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「……小火じゃない」
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アーデルハイトが、
息を呑む。
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「……スラム地区です」
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空気が、
止まる。
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誰も、
動かない。
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「スラムか……」
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低い声。
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「行っても無駄だ」
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別の声。
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「井戸もねぇ」
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「間に合わん」
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視線が逸れる。
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だが。
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「同じ町の人間だろ!」
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反発。
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空気が、
割れる。
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自警団も揺れる。
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決まらない。
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その中で。
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アーデルハイト。
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「……あそこは」
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一拍。
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「火が出れば、止まりません」
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冷静に。
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距離を取る。
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ジョーが、
見る。
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何も言わない。
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視線を戻す。
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煙。
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太く、
広がる。
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火が出れば、
止まらない。
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――小火の少し前。
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スラム地区。
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木造。
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密集。
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隙間は狭い。
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その中。
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少年。
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肉と油を手に立つ。
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「美味いもん、食わせるからな」
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幼い兄弟のため。
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あの店で、
聞こえた通りに。
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焼く。
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強火。
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分からない。
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加減。
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油が跳ねる。
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熱い。
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手が離れる。
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鍋が落ちる。
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油が広がる。
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火に触れる。
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燃え上がる。
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壁へ。
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天井へ。
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一気に。
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気づいた時には、
遅い。
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火は、
広がっていた。
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――現在。
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炎は走る。
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木を食い、
天井を舐める。
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隣へ移る。
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さらに。
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止まらない。
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煙が溜まる。
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逃げ場はない。
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人が倒れる。
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混乱。
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その中で。
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神父と、
シスター。
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動く。
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助ける為、
煙の中へ。
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その時。
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僅か数秒。
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崩れる。
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梁。
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落ちる。
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包まれる。
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間に合わない。
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やがて。
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運び出される。
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動かない体。
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シスター。
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神父。
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アーデルハイトが、
崩れる。
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膝をつく。
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震える。
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ジョーが、
見る。
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一瞬、
目を閉じる。
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そして、
開く。
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火を見る。
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まだ広がっている。
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止まっていない。
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「……おい、アーデルハイト」
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低く。
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「困ってる人が目の前に居たら」
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一拍。
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「誰であろうと助けるのが、自警団じゃないのか」
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静かに。
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強く。
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空気が張る。
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だが、
時間はない。
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水が足りない。
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方法がない。
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その時。
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ジョーが動く。
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燃えていない家へ。
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壊す。
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柱を落とす。
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「何してんだ!」
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怒号。
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だが、
止まらない。
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「火が来る前に!」
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大声で。
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「燃える物を排除する!」
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短く。
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理解されない。
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だが、
叫ぶ。
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「壊せ!」
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「火が来る前に!」
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一瞬の静寂。
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ベルンハルトが、
前に出る。
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笑う。
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「家の事なら任せろ」
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斧を振るう。
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一撃。
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木が砕ける。
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道ができる。
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火の手を、
断つ。
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火の進みが鈍る。
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「こんな方法……」
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町人も自警団も。
迷いながら、
壊し始める。
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守るために。




