第五章 第1話 町の違和感
通りを、
歩く。
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人の流れに、
混ざる。
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アーデルハイトが、
前を行く。
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振り返らず、
だが、
歩調は合わせている。
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「まずは、大まかにご説明しますね」
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落ち着いた声。
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仕事の調子。
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「この町は、大きく三つに分かれています」
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指を、
軽く動かす。
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「商業区」
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「居住区」
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「職人区」
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簡潔に。
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「今いるのが、商業区です」
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周囲を示す。
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店。
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屋台。
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人。
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多い。
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「人の出入りが一番多い場所ですね」
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一拍。
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「人間が中心ですが」
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視線を流す。
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「獣人もそれなりに見かけます」
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実際に、
いる。
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耳。
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尾。
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隠していない。
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「ドワーフは少数」
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「エルフは……ほとんど見ません」
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「ノームは、たまに」
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淡々と。
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ジョーが、
周囲を見る。
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確かに、
偏りがある。
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「職人区に行けば、ドワーフはもう少しいますよ」
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続ける。
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「居住区は……特に変わりはありません」
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あえて、
流す。
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リーネが、
小さく首をかしげる。
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だが、
何も言わない。
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アーデルハイトが、
歩きながら続ける。
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「建物は石造りが基本です」
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壁に、
軽く触れる。
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「火に強い構造になっています」
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事実。
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「木造は主に外れの方ですね」
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ジョーが、
わずかに頷く。
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「延焼防止か」
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小さく。
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アーデルハイトが、
少しだけ目を細める。
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「ええ」
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短く。
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「火は、扱いを誤ると厄介ですから」
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淡々と。
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やがて。
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アーデルハイトが、
軽く振り返る。
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「名物は、ご存知ですか?」
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問い。
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ジョーが、
首を振る。
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リーネも、
同じく。
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「この町は、肉料理が有名です」
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わずかに、
表情が柔らぐ。
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「香辛料を多く使ったものが多くて」
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一拍。
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「……美味しいですよ」
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ほんの少しだけ、
嬉しそうに。
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リーネが、
目を輝かせる。
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「食べてみたい!」
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素直に。
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アーデルハイトが、
小さく笑う。
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「詳しいのは、そのためです」
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さらりと。
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「美味しいものを探しているうちに、町に詳しくなりました」
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自然に。
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ジョーが、
少しだけ笑う。
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「なるほどな」
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納得。
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だが。
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視線は、
周囲に戻る。
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石造りの建物。
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整っている。
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だが。
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ジョーが、
足を止める。
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「……なぁ」
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小さく。
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アーデルハイトが、
振り返る。
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「はい?」
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ジョーが、
少し考え、
口を開く。
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「井戸って、どこにある?」
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唐突に。
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リーネが、
首をかしげる。
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「井戸?」
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アーデルハイトが、
すぐに答える。
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「いくつかありますよ」
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自然に。
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「ただ、この辺りにはあまりありません」
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一拍。
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「井戸の水は、小川の支流を引いていますので」
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淡々と。
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「数を増やす必要がないんです」
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続ける。
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「一度に多く使う場合は」
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視線を奥へ向ける。
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「井戸ではなく、小川へ行きます」
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合理的。
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ジョーが、
わずかに眉をひそめる。
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「……奥か」
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距離を測る。
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建物を見る。
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石。
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だが。
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中は違う。
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机。
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椅子。
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布。
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燃えるものは、
いくらでもある。
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「石造りでも」
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小さく。
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「中は燃える」
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一拍。
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「火事が起きたら」
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視線が、
通りをなぞる。
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「水、間に合うか?」
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静かに。
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リーネが、
はっとする。
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「……あ」
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気づく。
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だが。
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アーデルハイトは、
少しだけ首をかしげる。
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「……そうでしょうか?」
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不思議そうに。
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「今まで、大きな火事はありませんし」
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事実として。
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「特に問題はないかと」
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迷いがない。
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ジョーが、
その顔を見る。
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否定ではない。
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本気で、
そう思っている。
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「……そうか」
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短く。
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それ以上は、
言わない。
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だが。
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視線は、
外さない。
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違和感だけが、
残る。
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陽は、
さらに高くなる。
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匂いが、
変わる。
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焼ける音。
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香辛料。
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肉の匂い。
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リーネが、
足を止める。
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「……いい匂い」
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素直に。
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アーデルハイトが、
振り返る。
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「ちょうど良い時間ですね」
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「名物を試してみますか?」
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ジョーが、
頷く。
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「そうだな」
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店に入る。
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中は、
賑やかだ。
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席に、
通される。
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ほどなくして。
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皿が、
置かれる。
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肉。
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焼かれている。
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だが。
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中心は、
赤い。
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リーネが、
固まる。
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ジョーも、
一瞬だけ、
言葉を失う。
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あの光景が、
よぎる。
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「……」
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無言。
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アーデルハイトは、
迷いなく食べる。
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一拍。
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二人を見る。
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「……お気になさらず」
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やんわりと。
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「香辛料を多く使いますので」
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「寄生虫の心配は、ほとんどありません」
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リーネが、
胸をなで下ろす。
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ジョーは、
リーネと目を合わせる。
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そして、
小さく頷く。
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ゆっくりと、
口に運ぶ。
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「……うまいな」
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リーネも、
続く。
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「……ほんとだ」
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その時。
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奥から、
声が響く。
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「違う!」
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怒声。
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厨房。
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一人の男が、
頭を下げている。
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「最初は強火だ!」
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「色を見て、火を落とす!」
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「それがこの料理の肝だ!」
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叱責。
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「まだ竈番は任せられん」
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突き放す。
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店のざわめきが、
戻る。
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アーデルハイトが、
静かに言う。
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「人気の店ですから」
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「料理人志願者が後を絶たないんです」
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「こういうのは、日常ですね」
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当たり前のように。
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ジョーは、
厨房を見る。
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火。
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強火。
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弱火。
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扱い。
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一歩間違えれば、
危うい。
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「……」
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違和感は、
消えない。
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むしろ。
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少しだけ、
濃くなる。




