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序章8 撤収

 鎮火報になり、撤収作業に入る。


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 火は消えた。


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 だが、終わりじゃない。


---


 グチャグチャの足場の中で、


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 ホースを巻く撤収作業をする。


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 通水したホースを巻き、オス金具の金属音が聞こえる。


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 カチャカチャ、と乾いた音が響く。


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 誰も、余計なことは言わない。


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 必要な声だけが飛ぶ。


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「そこ、引け」


「了解」


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 短いやり取り。


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 それだけで、回る。


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 いつも通りの動きのはずだった。


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 それなのに、


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 すべてが今までと違った。


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 手が、重い。


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 力が入らない。


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 視界が、どこか遠い。


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 さっきの光景が、離れない。


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 消えない。


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 頭の奥に、残っている。


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 焼き付いている。


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「おい、大丈夫か」


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 声をかけられる。


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「……さーせん」


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 声は出た。


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 遅れて。


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 自分の声なのに、どこか他人みたいだった。


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 足元を見る。


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 泥と水と、煤で汚れている。


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 踏みしめるたびに、ぐちゃりと音がする。


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 火は消えた。


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 現場は終わった。


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 そういうことになっている。


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 だが、


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 終わっていない。


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 あの中に、


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 残っている。


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 ジョーは、何も言わずにホースを巻いた。


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 それしか、出来なかった。


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 撤収が終わる。


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 車に乗り込む。


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 誰も、口を開かない。


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 サイレンは鳴らない。


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 詰所に、戻る。


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 その時――


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 鎮火の鐘。


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 カン……カン……カン……


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 乾いた音が、夜に響く。


---


 遠くまで、届く。


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 終わりを告げる音。


---


 それなのに、


---


 何も、終わっていない気がした。


---


 ジョーは窓の外を見たまま、


---


 何も言わなかった。

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