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序章7 クローゼット

 外は押さえた。


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 残るのは、中だ。


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 煙はまだ出ている。


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 白く、重い煙が、窓からゆっくりと吐き出されていた。


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「屋内侵入、開始!」


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「了解!」


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 ジョーは頷く。


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 ホースを握り直す。


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 横では、ホース補助が鳶口を手にしている。


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 建物へ向かう。


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 熱が、違う。


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 外とは比べ物にならない。


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 中は、まだ生きている。


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 入口に立つ。


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 煙で、先が把握出来ない。


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「いくぞ」


---


 短い声。


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 足を踏み入れる。


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 視界が、一気に潰れる。


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 何も、把握出来ない。


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 熱と、煙。


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 息が詰まる。


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 姿勢を落とす。


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 低く、進む。


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 床を感じる。


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「床抜けっかもだから壁沿いに進めよ!」


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 確かに。


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 寄りかからないように、壁際を一歩ずつ、進む。


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 焼けた匂い。


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 焦げた布の匂い。


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 それに混じる、


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 別の匂い。


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 言葉に出来ない。


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 ただ、


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 嫌な予感だけが、強くなる。


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 燃えてはいないが、焦げたクローゼットを見つけた。


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「箪笥発見、確認する!」


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 声を出す。


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 反応はない。


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 ホース補助が、鳶口を取っ手に引っ掛ける。


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 一瞬、止まる。


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 理由は分からない。


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 ただ、


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 開けたくなかった。


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 それでも――


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 開く。


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 一目でわかった。


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 動かない。


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 声もない。


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 どこか見覚えのある若い女。


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 その腕の中に、子供が二人。


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 抱きしめたまま、


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 動かない。


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 顔は――


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 恐怖に怯えた、そのままだった。


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 目を閉じている。


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 涙の跡が、残っている。


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 苦しんだまま、


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 泣きながら、


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 止まっている。


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 煙……一酸化炭素。


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 ……間に合わなかった。


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 ジョーは、動けなかった。


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 時間が、止まる。


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 さっきまで動いていた体が、


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 何も出来なくなる。


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 目だけが、開く。


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 息が詰まる。


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「ヒューヒュー……ハッハッ……確認……要救助者……三名……」


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 やっと、声が出た。


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 遅かった。


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 分かっている。


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 分かっているのに、


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 口に出す。


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 それしか、出来ない。


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 後ろから足音が来る。


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 誰かが横に立つ。


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 何も言わない。


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 見れば分かるから。


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 全部。


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 残り火は、もう弱い。


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 煙も、収まってきている。


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 間に合ったように見える。


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 でも、


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 間に合っていない。


---


 ジョーは、三人の仏を前に、


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 その場から動けなかった。


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 ただ、


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 見ていることしか、出来なかった。

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