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序章6 現場

 現場に近づくにつれて、煙の匂いがキツくなる。


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 すでに、始まっている。


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 角を曲がった瞬間、視界に入った。


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 炎と弧を描く水。


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 先着の消防署の隊が、すでに展開していた。


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「ありがとう!」


「おう、気張れよ!」


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 別班の機関員に声をかけ、ジョーは自分の班の車両へ向かう。


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「ジョー!右側、延焼防止入れ!」


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 先輩から怒号に近い指示が飛ぶ。


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 ホースは伸びきり、水はすでに火に叩きつけられている。


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(2線目、延長か……)


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 少ない出動経験ながら、目の前の現実と操法の2線延長が脳裏をよぎった。


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 まだ、火は勢いを残している。


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 そういう現場だった。


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「分団さん、こっち願います!」


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 隊員の一人が手を振る。


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「裏手!回って補助入れ!」


「了解!」


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 考える余裕はない。


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 指示に従う。


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 ホースを降ろす。


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 二股金具を使い、2線目ホースを展張。


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 筒先を結合する。


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 可動部を捻る。


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 火はまだ、生きている。


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「ここ押さえろ!延焼止める!」


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 「放水始め!」


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 ドン、とホースが重くなる。


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 圧が乗る。


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 同時に、黒煙が襲ってきた。


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「おい、噴霧だ!」


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 煙が迫ってくる。


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 すでに二線延長。


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 噴霧と直噴。


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 噴霧で煙を抑え、視界を確保する。


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 もう一線の直噴で、火元を叩く。


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 横に広がろうとする煙を、防ぐ。


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 風が、熱と煙を運ぶ。


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 それでも、


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 抑えられない規模じゃない。


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 先着が、しっかり抑えている。


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 こちらは、広げない。


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 それだけだ。


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「いいぞ、そのまま!」


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 声が飛ぶ。


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 放水を続ける。


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 徐々に、火の勢いが弱まる。


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 煙の色が変わる。


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 黒から、白へ。


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 燃えるものが減っていく。


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「もうちょいだ、続けろ!」


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 誰かが叫ぶ。


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 屋根の火は鳴りを潜めた。


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 外側は、ほぼ消火。


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 残るのは――


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 中だ。


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「一次、鎮圧!」


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 隊長の声が響く。


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 その言葉に、空気がわずかに緩む。


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 間に合ったかもしれない。


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 そう思った。


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 まだ終わっていない。


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 だが、


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 手遅れではない。


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 そう、思えた。


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 ジョーはホースを握ったまま、建物を見上げた。


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 黒く焦げた外壁。


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 割れた窓。


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 中は、把握出来ない。


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 煙が、まだ吐き出されている。


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「内部確認入る!」


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 署員の声が聞こえた。


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 ジョーは、何も言わずに頷いた。

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