第四章 第9話 沈黙の泉
久しぶりに、
泉へ向かう。
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道は、
整えられていた。
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かつて、
火を断ち切った円。
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その跡が、
そのまま道になっている。
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人が通る。
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足で踏み固められ、
自然と形になっている。
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罠はない。
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かつて仕掛けられていた、
トラバサミも。
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この区間には、
置かれていない。
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参拝する者が、
増えたからだ。
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泉。
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静かだ。
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澄んでいる。
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何も変わらない。
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だが。
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何かが違う。
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祠が、
建てられている。
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ジョーが引き揚げた、
ご神体。
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それを祀るためのものだ。
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数人の村人が、
祈りを捧げている。
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頭を垂れ、
手を合わせる。
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声はない。
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ただ、
静かに。
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リーネが、
周囲を見る。
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トールが、
辺りを警戒する。
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ガルドが、
地面を確認する。
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罠の位置。
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泉から西に、
クベルハイム。
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東に、
隣村。
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東西には、
罠はない。
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南北にだけ、
仕掛けられている。
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変わらない。
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変わっていないはずだ。
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それでも。
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静かすぎる。
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ジョーが、
小さく呟く。
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「……守り神、か……」
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祠を見る。
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一歩、
近づく。
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手を、
水に入れる。
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冷たい。
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澄んでいる。
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手を清める。
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自然と。
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体が、
覚えている。
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二礼。
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二拍手。
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目を閉じる。
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祈る。
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静かに。
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「……このまま」
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一拍。
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「平々凡々でありますように」
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心の中で。
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一礼。
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その時。
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何かが、
ズレる。
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時間の感覚。
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一瞬、
途切れる。
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違和感。
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目を、
開ける。
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誰もいない。
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音がない。
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風もない。
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「……リーネ?」
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呼ぶ。
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返事はない。
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「トール?」
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静寂。
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「……ガルド」
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何も返らない。
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一人だ。
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ジョーが、
周囲を見る。
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泉。
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祠。
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変わらない。
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だが。
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誰もいない。
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「……まさか」
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一瞬、
よぎる。
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異世界転移。
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だが。
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違う。
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分かる。
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これは、
違う。
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その時。
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声が、
届く。
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直接。
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意識に。
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「君が、この泉を助けてくれたんだね」




