第四章 第5話 火の粉と崩壊
朝。
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火の前。
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ジョーの声が、
静かに落ちる。
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「違う」
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短く。
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トールの手が、
止まる。
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「そこじゃない」
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一歩、
踏み込む。
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煙が、
流れる。
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揺れる。
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「風を見ろ」
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指で、
示す。
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トールの視線が、
追う。
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「火は、そこに乗る」
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低く。
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迷いがない。
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トールが、
やり直す。
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流れに合わせる。
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わずかに、
遅れる。
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「……違う」
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すぐに、
返る。
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「遅い」
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短い。
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だが、
見捨てない。
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「もう一度」
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それだけ。
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トールが、
歯を食いしばる。
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やり直す。
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今度は、
合う。
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ジョーが、
小さく頷く。
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「……いい」
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それだけ。
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トールが、
笑う。
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「おう!」
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単純。
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だが、
真っ直ぐだ。
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ジョーが、
続ける。
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「……俺の国じゃ」
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一拍。
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「火の粉って言うんだ」
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短く。
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トールが、
首をかしげる。
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「ヒノコ……?」
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聞き慣れない。
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繰り返す。
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ガルドが、
横から口を挟む。
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「……妙な言い回しだな」
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短く。
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だが。
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そのまま、
一歩踏み出す。
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視線は、
火。
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「――俺にも教えろよ」
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遠慮がない。
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トールが、
振り返る。
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「お前もやんのか?」
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ガルドが、
鼻で息を吐く。
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「使えるなら、覚える」
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それだけ。
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
わずかに位置を空ける。
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それが、
答えだった。
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「流れを見ろ」
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短く。
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三人が、
並ぶ。
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火を前に、
同じ方向を見る。
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昼。
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動きが、
揃い始める。
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まだ荒い。
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だが、
形になる。
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トールは、
ぶつかりながら進む。
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ガルドは、
無駄なく詰める。
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ジョーは、
見ている。
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必要な時だけ、
言葉を入れる。
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短く。
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確実に。
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空気が、
少し変わる。
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夕方。
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少し離れた場所。
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リーネとアンが、
三人を見ている。
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火の前。
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背中が並ぶ。
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リーネが、
ぽつり。
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「変わったね」
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アンが、
小さく笑う。
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「変わったね」
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同じ言葉。
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違う意味。
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リーネが、
続ける。
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「ジョーってさ」
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視線を外さない。
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「不器用だよね」
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アンが、
頷く。
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「うん」
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短く。
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「でも、ちゃんと見てる」
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リーネが、
少し笑う。
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「トールは?」
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アンが、
肩をすくめる。
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「分かりやすい」
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即答。
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「真っ直ぐで」
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「止まらない」
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リーネが、
目を細める。
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「うん……」
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迷いが混じる。
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「ガルドは?」
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アンが、
少し考える。
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「……面倒」
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小さく笑う。
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「でも嘘はない」
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沈黙。
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火が、
揺れる。
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アンが、
リーネを見る。
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表情が、
変わる。
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「リーネ」
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短く。
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「もしさ」
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一拍。
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「ジョーと、この先一生会えなくなるとしたら?」
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空気が止まる。
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リーネの目が、
揺れる。
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言葉が出ない。
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アンが、
続ける。
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「どうする?」
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逃がさない。
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まっすぐ。
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リーネの呼吸が、
浅くなる。
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アンが、
踏み込む。
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「そろそろ決めな」
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低く。
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「一番辛くなるの、あんただよ」
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それだけ。
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夕方。
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トールが、
一人でいる。
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リーネが、
近づく。
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「……こないだの事なんだけど」
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トールの手が、
止まる。
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「……ああ」
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短く。
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リーネが、
息を吸う。
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「……まだ」
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震える。
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「私の事、好き?」
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静寂。
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トールが、
答える。
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「……好き」
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一瞬。
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リーネの目が、
揺れる。
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だが。
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「……だったよ」
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過去形。
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切れる。
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「だってさ」
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少し笑う。
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「お前、違うって言ったじゃん」
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軽い。
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だが、
終わっている。
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「だから、もういい」
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本気で、
そう思っている。
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リーネが、
動けない。
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遅かった。
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一歩、
遅かった。
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夜。
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リーネの姿が、
見えない。
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ダンが、
言う。
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「……様子がおかしい」
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アンを見る。
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「見てやってくれ」
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短く。
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アンが、
頷く。
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リーネの家。
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扉の前。
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「……アタシが焚き付けた」
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小さく呟く。
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目を閉じる。
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開く。
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「……最後まで見るよ」
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扉を開ける。
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中。
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空気が、
重い。
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部屋。
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――散乱。
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物が、
床に散っている。
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ベッドは、
崩れている。
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隅。
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リーネ。
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膝を抱えている。
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小さく、
揺れている。
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「……トールは……」
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かすれる声。
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「……もう……好きじゃない……」
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呼吸が、
乱れる。
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「……ジョーは……」
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目が、
虚ろに開く。
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「……受け入れて……くれるかな……」
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震える。
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「……ジョー……」
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繰り返す。
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「……好きって……言ってない……」
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思考が、
崩れていく。
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「……私は……」
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息を吸う。
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「……ジョーが好き……」
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一拍。
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「……ジョーが好き……」
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止まらない。
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壊れている。
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アンが、
近づく。
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しゃがむ。
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手を伸ばす。
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頬に触れる寸前。
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止まる。
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一瞬の迷い。
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だが。
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振り抜く。
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パシン。
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乾いた音。
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リーネの顔が、
揺れる。
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時間が、
止まる。
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そして。
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焦点が戻る。
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「……アン?」
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小さく。
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だが、
まだ崩れている。
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「……私ね……」
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息が乱れる。
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「ジョーに……好きって……まだ言ってないの……」
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繰り返す。
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「……言わなきゃ……」
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「……言わなきゃ……」
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アンが、
静かに言う。
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「……見届けるよ」
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一拍。
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「アタシが焚き付けた」
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「なら、最後まで」
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それだけ。
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リーネの手を取る。
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立たせる。
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夜。
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ジョーの元へ。
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扉が、
開く。
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ジョーが、
振り返る。
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目が合う。
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その瞬間。
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リーネが、
崩れるように駆ける。
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抱きつく。
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「ジョー……!」
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震える。
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「好き……好き、好き……!」
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縋る。
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「あなたが……!」
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止まらない。
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アンが、
一歩出る。
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腕を軽く押さえる。
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「悪いね、ジョー」
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静かに。
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「少し付き合って」
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手を離す。
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リーネが、
立つ。
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揺れている。
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それでも、
言う。
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「……あの日」
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息が乱れる。
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「煙の中から……助けてくれた時から……」
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「頭から……離れないの……」
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一歩、
近づく。
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「ねぇ……」
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声が崩れる。
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「ジョーも……私のこと……好きでしょ?」
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縋る。
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「好きって……言って……」
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震える。
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「……言って……」
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崩れる。
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その時。
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ジョーが、
動く。
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一歩。
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手を伸ばす。
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肩を支える。
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倒れないように。
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そして、
言う。
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「あぁ……」
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短く。
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「俺もリーネが好きだ」
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はっきりと。
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迷いなく。
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リーネの瞳が、
開く。
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安心が、
広がる。
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力が、
抜ける。
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そのまま、
崩れる。
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ジョーが、
受け止める。
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完全に、
意識を手放す。
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静かに。
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眠るように。
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
抱えたまま。
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動かない。
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アンが、
部屋の隅にいる。
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見ている。
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全部を。
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声は出ない。
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だが。
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涙だけが、
落ちる。
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止まらない。
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それでも、
動かない。
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ただ、
受け止めている。




