第三章 第9話 軋轢
熱。
---
工房の中。
---
鉄の匂い。
---
焦げた匂い。
---
そして。
---
沈黙。
---
誰も、
動かない。
---
ガルドは、
立っている。
---
奥で。
---
ただ、
見ている。
---
トールの喉が、
鳴る。
---
一歩。
---
踏み出す。
---
「……おい」
---
低い声。
---
ガルドは、
答えない。
---
アンが、
続く。
---
「何やってたんだい」
---
空気が、
張る。
---
ガルドの視線が、
わずかに動く。
---
三人を見る。
---
リーネを見る。
---
ジョーを見る。
---
そして、
口を開く。
---
「……見た通りだ」
---
短い。
---
それだけ。
---
トールの眉が、
吊り上がる。
---
「ふざけるな」
---
一歩、
詰める。
---
「盗賊側にいたのは事実だろ」
---
ガルドは、
否定しない。
---
沈黙。
---
それが、
答えだった。
---
アンが、
歯を食いしばる。
---
「……じゃあ裏切りかい」
---
その言葉に、
わずかな間。
---
ガルドの目が、
揺れる。
---
ほんの一瞬。
---
だが、
消える。
---
「違う」
---
低く、
はっきりと。
---
「裏切ってはいない」
---
空気が、
揺れる。
---
トールが、
吐き捨てる。
---
「だったら説明しろ」
---
一歩、
さらに詰める。
---
「何やってたんだ」
---
ガルドが、
視線を外す。
---
床。
---
鉄。
---
そして。
---
小さく、
息を吐く。
---
「……言えねぇ」
---
その言葉に、
空気が凍る。
---
アンが、
声を荒げる。
---
「言えねぇ、だって?」
---
リーネが、
小さく言う。
---
「理由が……あるんですよね」
---
願うような声。
---
ガルドは、
答えない。
---
トールが、
拳を握る。
---
「信用できるかよ、そんなの」
---
ジョーが、
一歩前に出る。
---
懐から、
取り出す。
---
布。
---
破けた、
意匠付きの布。
---
差し出す。
---
「これ」
---
短く言う。
---
「お前のだな」
---
ガルドの目が、
わずかに動く。
---
ジョーが、
続ける。
---
「裂け方が整いすぎてる」
---
「襲われた痕じゃない」
---
間。
---
「あの罠がヒントってところか」
---
静かな声。
---
ガルドが、
小さく舌打ちする。
---
「……余計なこと言うな」
---
だが、
否定はしない。
---
それだけで、
十分だった。
---
ジョーは、
何も言わない。
---
ただ、
確信する。
---
何かある。
---
だが、
まだ足りない。
---
アンが、
苛立つ。
---
「結局、何も言わないじゃないか」
---
トールも、
睨む。
---
「それで信じろってのか」
---
リーネが、
迷う。
---
視線が、
揺れる。
---
ガルドを見る。
---
ジョーを見る。
---
言葉が、
出ない。
---
その時。
---
奥から、
声。
---
「そこまでにしとけ」
---
低い声。
---
グスタフ。
---
腕を組んでいる。
---
「ここは工房だ」
---
短く言う。
---
「揉め事する場所じゃねぇ」
---
その言葉を、
遮るように。
---
ガルドが、
口を開く。
---
「……グスタフだけに話がある」
---
低く、
はっきりと。
---
一行の視線が、
集まる。
---
グスタフが、
わずかに目を細める。
---
そして。
---
小さく、
息を吐く。
---
「……分かった」
---
一行を見る。
---
「すまん」
---
短く言う。
---
「いったん外で待っててくれるか」
---
沈黙。
---
トールが、
顔を歪める。
---
アンも、
何か言いかける。
---
だが。
---
ロンが、
一歩出る。
---
「行くぞ」
---
短く言う。
---
それだけで、
動き出す。
---
リーネが、
最後にガルドを見る。
---
迷いの残る目。
---
ガルドは、
見ない。
---
ただ、
立っている。
---
扉が、
閉まる。
---
重い音。
---
中に残るのは、
二人だけだった。




