第三章 第7話 入国
岩山を、
抜ける。
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風が、
変わる。
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乾いた空気。
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わずかに、
熱を含む。
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リーネが、
鼻をひくつかせる。
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「……匂いが違います」
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アンが、
周囲を見る。
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「鉄と……焦げた匂いだね」
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トールが、
前を見る。
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「もう近いってことか」
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
思い出す。
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学校で行った、
社会科見学。
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製鉄工場。
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熱と、
匂い。
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似ている。
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やがて。
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見えてくる。
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岩を削って造られた、
巨大な門。
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左右に、
積み上げられた石壁。
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その中に、
埋め込まれたような構造。
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門の前。
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低く、
がっしりとした体格。
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髭。
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厚い腕。
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ドワーフ。
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数人、
立っている。
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腰には、
工具。
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そして、
武器。
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アンが、
小さく呟く。
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「ほんとに鍛冶屋って感じだね」
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トールが、
頷く。
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「ただの職人じゃなさそうだ」
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門番の一人が、
前に出る。
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「止まれ」
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低い声。
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響く。
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キャラバンが、
止まる。
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隊長が、
前に出る。
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「交易のために来た」
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短く言う。
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門番が、
鼻を鳴らす。
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「今は入れん」
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空気が、
止まる。
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アンが、
眉をひそめる。
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「は?」
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小さく漏れる。
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隊長が、
落ち着いた声で言う。
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「理由を聞こう」
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門番が、
腕を組む。
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「ここ最近、爆発が続いてる」
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「月に一度はどこかが吹き飛ぶ」
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ざわつく。
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トールが、
顔を上げる。
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「爆発……?」
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リーネが、
小さく呟く。
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「火の魔石……」
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門番が、
ちらりと見る。
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「知ってるか」
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短く言う。
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「なら話は早い」
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「今は余所者は入れん」
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緊張が、
走る。
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アンが、
一歩出る。
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「それじゃ困るんだけど?」
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門番の視線が、
鋭くなる。
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空気が、
張り詰める。
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その時。
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隊長が、
手を上げる。
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「待て」
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短く制す。
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懐から、
取り出す。
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焼印が押された、
両手ほどの羊皮紙。
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厚く、
しなやかにたわむ。
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ドワーフの意匠。
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門番の目が、
細くなる。
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「……グスタフんとこのか」
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低く呟く。
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隣の門番が、
頷く。
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「身元引受付きだな」
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隊長が、
静かに言う。
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「通行証の代わりになるはずだ」
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門番が、
鼻を鳴らす。
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「工房の名を背負うってことだ」
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「問題を起こせば、責任はそっちにも行く」
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隊長が、
頷く。
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「承知している」
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沈黙。
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門番たちが、
視線を交わす。
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やがて。
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一人が、
頷く。
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「……いいだろう」
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「条件付きだ」
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「常に俺らの誰かが同行する」
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視線が、
一行をなぞる。
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門が、
軋む。
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ゆっくりと、
開く。
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重い音。
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その奥。
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煙。
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立ち上る。
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黒くはない。
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だが、
どこか不安定な煙。
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アンが、
小さく呟く。
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「……なんか、嫌な煙だね」
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ジョーは、
それを見つめる。
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何も言わない。
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ただ、
確信する。
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この国で、
何かが起きている。
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キャラバンは、
ゆっくりと門をくぐる。
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ドワーフの国へと、
足を踏み入れた。




