第三章 第6話 ガルドの選択
暗い。
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湿った土。
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冷たい石。
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その中で、
ガルドは倒れていた。
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息が荒い。
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体が動かない。
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殴られた跡。
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蹴られた跡。
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血。
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視界が揺れる。
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「……こいつ、まだ生きてるぞ」
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笑い声。
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盗賊。
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囲まれている。
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持っていた物は、
もうない。
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金も。
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装備も。
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全部。
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奪われた。
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その中に、
トラバサミもあった。
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盗賊の一人が、
それを持ち上げる。
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「なんだこれ」
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振る。
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重い音。
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「罠か?」
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別の男が、
覗き込む。
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「どう使うんだ?」
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ガルドは、
答えない。
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黙る。
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沈黙。
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盗賊が、
顔を歪める。
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「喋れよ」
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蹴る。
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衝撃。
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だが。
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ガルドは、
目だけを動かす。
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そして、
低く言う。
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「……このまま俺が言わなきゃ」
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息を吐く。
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「それ、使い方もわからねぇゴミだ」
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空気が、
変わる。
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盗賊が、
止まる。
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ガルドが、
続ける。
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「売れもしねぇ」
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間。
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「だが」
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ゆっくりと、
顔を上げる。
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「俺の命を助けるなら」
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「必要な時に使ってやる」
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沈黙。
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盗賊たちが、
顔を見合わせる。
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やがて。
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笑い声。
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「面白ぇ」
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ボスが、
前に出る。
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「やってみろ」
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短く言う。
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ガルドは、
立ち上がる。
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ふらつきながら。
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トラバサミを、
受け取る。
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何も言わない。
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ただ、
動く。
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地面を見る。
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位置を決める。
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手際よく、
埋める。
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だが。
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決定的な部分は、
見せない。
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隠す。
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わからないように。
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仕掛け終わる。
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ガルドが、
言う。
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「外してみな」
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盗賊の一人が、
近づく。
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触る。
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動かない。
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別の男。
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無理に外そうとする。
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びくともしない。
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焦る。
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「なんだこれ……!」
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ガルドは、
何も言わない。
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ただ、
見ている。
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ボスが、
笑う。
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「いいな」
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「これなら……」
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目が光る。
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「聖騎士団の馬でも止められる」
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盗賊たちが、
湧く。
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笑う。
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興奮。
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ガルドは、
黙ったまま。
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ただ、
視線を落とす。
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(……生き延びた)
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それだけだった。
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場面が、
変わる。
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岩山。
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上から、
見下ろす。
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キャラバン。
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そして、
戦い。
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ガルドの目が、
細くなる。
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(……来たか)
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仲間たち。
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トール。
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アン。
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リーネ。
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ジョー。
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胸が、
わずかに動く。
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だが、
顔には出さない。
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戦いが終わる。
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ボスが倒れる。
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空気が、
崩れる。
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盗賊たちが、
騒ぐ。
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「どうする!?」
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「誰が頭だ!」
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「分け前は!?」
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混乱。
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統率が消える。
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ガルドは、
動かない。
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ただ、
見ている。
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そして。
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一歩。
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静かに、
下がる。
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誰も見ていない。
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誰も気づかない。
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ガルドは、
そのまま、
離れる。
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岩の影へ。
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そのまま、
走る。
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止まらない。
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振り返らない。
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(……追いつく必要はねぇ)
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息が荒くなる。
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だが、
止まらない。
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(先に行く)
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頭の中に、
地図。
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盗賊団の会話。
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抜け道。
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全部、
覚えている。
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岩山を抜ける。
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細い道。
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分岐。
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迷わない。
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進む。
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(キャラバンより先に)
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(あいつらより先に)
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目指す場所は、
一つ。
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ドワーフの国。
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遠い。
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だが、
最短。
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走る。
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息が、
切れる。
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それでも、
止まらない。
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(……待ってろ)
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小さく、
呟く。
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誰にも聞こえない声。
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ガルドは、
前だけを見て、
走り続けた。
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―――
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トールが、
口を開く。
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「……ガルド、生きてたな」
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アンが、
顔をしかめる。
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「でも……あの動き」
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「完全に盗賊側だった」
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沈黙。
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リーネが、
迷うように言う。
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「助けてくれたようにも……見えましたけど」
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トールが、
首を振る。
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「いや、わからん」
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ジョーが、
静かに言う。
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「……あり得る話ではある」
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三人が、
見る。
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ジョーは、
続ける。
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「村長に突き放された」
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「そう受け取ってもおかしくない」
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「実際、あいつは浮いてた」
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アンが、
黙る。
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トールも、
何も言わない。
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ジョーが、
小さく言う。
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「寝返っていたとしても、不思議じゃない」
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風が、
吹き抜ける。
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誰も、
否定しなかった。




