第三章 第4話 仕掛けた理由
岩の上。
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見下ろす。
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細い道。
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その先。
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積まれた岩。
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人の手で、
積まれたもの。
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道を、
塞ぐ。
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上から見下ろす、
男たち。
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盗賊。
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その中に、
ガルドがいた。
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腕を組み、
黙っている。
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視線だけが、
動く。
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道の先。
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キャラバン。
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ゆっくりと、
近づいてくる。
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ガルドの目が、
細くなる。
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見覚えのある、
動き。
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見覚えのある、
姿。
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トール。
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アン。
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リーネ。
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そして。
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ジョー。
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一瞬。
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息が、
止まる。
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「……なんでここに」
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小さく、
呟く。
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ありえない。
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だが、
現実だ。
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岩を退かす。
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進む。
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止まらない。
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ガルドの歯が、
食いしばられる。
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(このままじゃ、奴ら巻き込まれる)
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盗賊の数は多い。
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位置も、
上。
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商隊への奇襲。
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逃げ場はない。
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(……俺一人じゃ無理だ)
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分かっている。
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だからこそ、
ここにいる。
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だが。
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正体は、
明かせない。
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知られれば、
終わる。
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なら。
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ガルドの視線が、
岩を見る。
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道。
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幅。
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足の運び。
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位置。
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そして。
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記憶。
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幼い頃。
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森の中。
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なぞなぞ。
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「ここに無いもの、何だ?」
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答え。
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罠。
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避けるための知恵。
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ガルドの口元が、
わずかに動く。
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「ここにあるもの……使うか」
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低く言う。
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盗賊の一人が、
近づく。
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「どうした」
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ガルドが、
視線を外さず言う。
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「このままじゃ逃げられる」
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「馬を止めろ」
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短く。
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「どうやってだ」
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ガルドが、
岩の下を見る。
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狭い道。
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横に逃げられない。
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「罠だ」
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言い切る。
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「足を挟めば終わりだ」
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盗賊が、
鼻を鳴らす。
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「そんなもんで止まるか」
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ガルドが、
振り向く。
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目が、
冷たい。
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「止まる」
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「この道ならな」
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一瞬の沈黙。
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奥から、
声。
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「ほう」
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盗賊の頭。
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ボスが、
歩いてくる。
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「理由は」
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ガルドが、
視線を向ける。
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「馬車が通れる幅しかない」
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「横に逃げられない」
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「足を止めれば、詰む」
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ボスが、
笑う。
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「理にかなってる」
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顎をしゃくる。
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「やれ」
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短い命令。
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ガルドが、
頷く。
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視線を落とす。
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拳が、
わずかに震える。
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(……すまねぇ)
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だが。
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手は、
止めない。
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トラバサミ。
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地面に、
埋める。
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位置。
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間隔。
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踏む場所。
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全部、
分かっている。
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自分が、
育った場所の技術。
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門外不出。
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本来、
使うべきではないもの。
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だが。
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今は違う。
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服を、
引き裂く。
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布が、
裂ける。
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自分のもの。
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俺の誇りだった自警団の、意匠。
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それを、
岩に引っかける。
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盗賊の一人が、
笑う。
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「なんだそれ」
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ガルドが、
答える。
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「助けを求めた跡に見せる」
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「油断する」
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ボスが、
頷く。
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「なるほどな」
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「焦って動く」
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「そこを叩くか」
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ガルドは、
何も言わない。
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ただ、
視線を下に戻す。
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キャラバン。
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近づいてくる。
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仲間たち。
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(気づけ)
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胸の奥で、
呟く。
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(これはなぞなぞだ)
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風が、
抜ける。
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匂いが、
流れる。
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火の気配。
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油。
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そして。
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嗅いだことのない、
妙に気になる臭い。
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ガルドの目が、
わずかに細くなる。
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(……なんだ、この匂い)
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だが。
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今は、
それどころじゃない。
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トラバサミが、
埋まる。
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準備は、
整う。
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ボスが、
笑う。
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「来るぞ」
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その一言で、
空気が変わる。
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ガルドは、
動かない。
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動けない。
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ただ。
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見下ろす。
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そして。
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心の中で、
繰り返す。
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(頼む)
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(気づいてくれ)
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それだけだった。




