第三章 第3話 罠と謎
岩山の道。
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馬車がすれ違える程度の、幅。
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左右は断崖絶壁、
逃げ場はない。
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キャラバンの列が、
慎重に進む。
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足音と、
車輪の音だけが続く。
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ジョーは、
周囲を見る。
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静かすぎる。
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トールが、
低く言う。
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「嫌な感じだな」
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アンが、
肩をすくめる。
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「来るならこういう所だねぇ」
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リーネは、
何も言わない。
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ただ、
前を見ている。
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その時。
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ガシャッ!
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重い金属音。
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馬が、
大きくいななく。
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「止まれ!」
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隊長の号令。
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列が、
一斉に止まる。
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前方。
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馬が崩れる。
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前脚。
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挟まれている。
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鉄。
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地面に埋め込まれた、
トラバサミ。
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トールが、
目を見開く。
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「……これ」
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アンが、
すぐにしゃがむ。
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罠を見る。
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指で構造をなぞる。
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「ボア用だ」
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低く言う。
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ジョーが、
眉を寄せる。
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「ここにボアは出ない」
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アンが、
頷く。
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「岩山だよ」
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「森じゃない」
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トールが、
周囲を見る。
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「しかも……」
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言葉が、
止まる。
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アンが、
静かに続ける。
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「村の型だ」
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空気が、
変わる。
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「門外不出」
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「解除も含めてね」
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リーネが、
小さく呟く。
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「……なぞなぞ」
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トールが、
顔を上げる。
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「……あれか」
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アンが、
わずかに笑う。
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「“ここに無いもの、何だ?”ってやつ」
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リーネが、
続ける。
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「森に無いものは、村の子供」
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「自然に無いものは、人の手で作られた道」
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トールが、
罠を見る。
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「……じゃあこれは」
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アンが、
低く言う。
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「人工の罠」
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「人が仕掛けてる」
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ジョーが、
周囲を見る。
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岩。
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削られた道。
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長い年月で作られた、
人工の道。
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「人工の道に、人工の罠」
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低く言う。
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「偶然じゃない」
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トールが、
息を飲む。
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「……村の人間か」
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アンの顔が、
険しくなる。
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その時。
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足元。
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布。
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岩に、
引っかかっている。
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トールが、
拾う。
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裂けている。
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汚れている。
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アンが、
覗き込む。
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そして。
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固まる。
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「……これ」
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声が、
震える。
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「ガルドの服だ」
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リーネが、
息を呑む。
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トールが、
布を広げる。
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縫い目。
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印。
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自警団の意匠。
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トールが、
自分の袖を見せる。
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「同じだ」
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アンも、
頷く。
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「間違いない」
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空気が、
揺れる。
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怒り。
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困惑。
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そして。
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疑念。
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トールが、
低く言う。
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「……なんでだ」
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アンが、
歯を食いしばる。
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「なんでガルドがこんな所に」
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リーネが、
小さく言う。
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「盗賊と……関係が?」
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その言葉が、
刺さる。
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ジョーは、
布を見る。
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しゃがむ。
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確かめる。
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裂け方。
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繊維。
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そして。
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低く言う。
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「……破り方が整いすぎてる」
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トールが、
顔を向ける。
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「何が言いたい」
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ジョーは、
布を返す。
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「襲われた痕じゃない」
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「意図的に裂いてる」
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沈黙。
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アンの目が、
揺れる。
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リーネが、
息を詰める。
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トールの眉が、
寄る。
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「じゃあ……」
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ジョーが、
周囲を見る。
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岩。
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影。
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高低差。
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「見られてる」
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小さく言う。
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その瞬間。
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石が、
転がる。
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上から。
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影が、
動く。
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岩の上。
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複数。
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弓。
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刃。
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先ほど嗅いだ臭いは、
盗賊達の野営跡か。
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隊長が、
怒鳴る。
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「迎撃準備!」
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空気が、
一変する。
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ジョーは、
動かない。
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ただ、
確信する。
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この罠は、
なぞなぞだ。
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そして。
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答えは、
一つしかない。
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「……ガルドは生きている」
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低く、
静かに、
言った。




