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序章4 操法

 夜のグラウンドは、やけに明るかった。


---


 照明に照らされた架台の上に、ホースが真っ直ぐ並べられている。


---


「番号!」


「1!」


「2!」


「3!」


「4!」


「声が小さい!もう一回!」


---


 号令が飛ぶ。


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 声が揃う。


 動きが揃う。


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 走る。


 止まる。


 構える。


---


 ホースを伸ばす。


 結合する。


---


「放水始め!」


---


 水が出る。


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 何度も繰り返した動きだった。


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 体が覚えている。


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 考える前に、動ける。


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 無駄がない。


 速い。


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 ――正しい。


---


 それは、分かっている。


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「三番員!もやい結び、もう忘れたか!」


「すみません!」


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 怒声が飛ぶ。


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 位置。


 角度。


 タイミング。


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 すべてが決められている。


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 その通りに動けばいい。


 その通りにやればいい。


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 それで、評価される。


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 ジョーも動く。


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 遅れないように。


 ズレないように。


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 合わせる。


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 綺麗に、揃える。


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 ――でも。


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 火がない。


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 煙もない。


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 誰も、助けを呼んでいない。


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 ただ、「火」と書かれた火点の的がそこにあるだけだ。


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「よし、10分休憩してもう一回!」


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 最初からやり直す。


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 同じ動き。


 同じ声。


 同じ流れ。


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 繰り返す。


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 何度も。


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 間違いは減っていく。


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 動きは、洗練されていく。


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 それでも――


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 火災現場じゃない。


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 汗が額を伝う。


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 呼吸が荒くなる。


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 だが、煙はない。


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 視界も奪われない。


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 熱もない。


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 危険は、そこにはない。


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 安全な場所で、


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 完全な動きを繰り返している。


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 それが必要なことなのは、分かる。


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 分かるが――


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「今年はタイム狙えるな」


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 誰かが言った。


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 その言葉に、少しだけ引っかかった。


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 タイム。


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 速さ。


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 綺麗さ。


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 評価。


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 全部、大事なはずなのに。


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 どこか、違う。


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 ジョーはホースを握ったまま、ほんの一瞬だけ考えた。


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 現場は、こんな風にはいかない。


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 揃わない。


 待ってくれない。


 やり直しもできない。


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 間違えれば、それで終わる。


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「何ぼさっとしてんだ!」


「……すみません」


---


 声に引き戻される。


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 体が、勝手に動く。


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 走る。


 繋ぐ。


 構える。


---


 完璧に、こなす。


---


 それが求められているから。


---


 それが、正しいから。


---


 それでも。


---


 どこかが、引っかかっていた。

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