第二章 第3話 逃げるも勝ち
眼前の泉。
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不自然な程に、
澄んでいる。
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森の中に、
ぽっかりと空いた空間。
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光が差し、
水面が揺れている。
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静かだった。
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トールが、
肩の水筒に触れる。
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軽い。
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「水、補給しとくか」
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
泉を見る。
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二人が、
歩き出す。
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一歩。
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二歩。
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三歩。
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水面が、
揺れる。
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小さく。
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波紋。
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トールの足が、
わずかに止まる。
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「……?」
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再び、
歩く。
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四歩。
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五歩。
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揺れが、
強くなる。
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風ではない。
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内側から。
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ざわつく。
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ジョーの視線が、
細くなる。
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六歩。
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七歩。
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水面が、
盛り上がる。
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歪む。
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形が、
生まれる。
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トールの足が、
止まる。
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残り、
五歩。
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「おい」
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低く言う。
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水の中。
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何かが、
動いている。
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一つではない。
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数えきれない。
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残り、
三歩。
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水面から、
浮かび上がる。
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透明な塊。
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一つ。
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二つ。
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三つ。
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「……っ」
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トールの声が、
変わる。
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「多すぎるだろ……!」
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次々と、
湧く。
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止まらない。
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水面が、
崩れる。
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「来るぞ!」
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トールが踏み込む。
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剣を振る。
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斬る。
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崩れる。
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さらに斬る。
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崩す。
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その勢いのまま、
一体を弾き飛ばす。
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大きく、
後方へ。
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二人が来た道へと、
転がる。
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だが、
止まらない。
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左右から、
迫る。
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歪に、
滑らかに。
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迫る。
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体当たり。
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トールの体が揺れる。
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「チッ……!」
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踏みとどまる。
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だが、
重い。
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動きが、
鈍い。
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数が、
多い。
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囲まれる。
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ジョーは、
まだ動かない。
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見ている。
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水の中。
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湧いている。
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止まらない。
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その時。
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一体が、
ジョーへ向かう。
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歪に、
滑らかに。
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迫る。
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ジョーが動く。
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踏み込む。
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体を捻る。
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かわす。
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そのまま、
掴む。
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柔らかい。
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重い。
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そのまま、
地面に叩きつける。
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弾んで、
跳ねた。
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潰れない。
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そのまま、
転がる。
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転がるように、
水際へ。
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泉へ戻る。
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沈む。
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ジョーの動きが、
止まる。
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「戻った……?」
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さらに来る。
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トールが、
息を荒げる。
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「何だよ、これ……!」
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終わらない。
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ジョーが、
低く言う。
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「下がるぞ」
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トールが、
反応する。
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「は?」
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その間にも、
迫る。
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ジョーが、
前に出る。
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位置を入れ替える。
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押し返す。
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無理やり。
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だが、
押し切れない。
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「下がろう」
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短く言う。
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トールが、
歯を食いしばる。
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「そうだな……っ!」
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二人は、
後ろへ下がる。
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じりじりと。
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距離を取る。
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五歩。
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六歩。
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七歩。
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スライムが、
ざわつく。
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波立つ。
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だが。
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それ以上は、
来ない。
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水際で、
止まる。
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揺れる。
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戻る。
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泉へ。
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溶け込む。
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静寂。
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トールが、
その場に膝をつく。
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息が荒い。
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「なんだよ、今の……」
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ジョーは、
振り返る。
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来た道。
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少し離れた地面。
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さっき弾き飛ばしたそれが、
残っていた。
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形を崩した、
半透明の塊。
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完全には、
消えていない。
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ジョーが、
それを見る。
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何も言わない。
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ただ、
目を細める。
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風が、
抜ける。
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森は、
静かだった。




