第二章 第1話 外
朝だった。
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村の外。
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風は、
同じように吹いている。
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だが、
違う。
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匂いが、
違った。
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土の匂い。
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湿り気。
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混じっている。
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草を踏む音が、
やけに大きい。
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静かすぎる。
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ジョーは、
足を止めない。
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視線だけが、
周囲を追っている。
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後ろから、
足音。
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トールだった。
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少しだけ、
距離を空けて歩いている。
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何も言わない。
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だが、
気配は消さない。
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「……こんなもんか、外って」
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ジョーが、
前を向いたまま言う。
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トールは、
少しだけ間を置く。
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「森に入る前は、こんな感じだな」
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どこか、
様子を伺うような言い方。
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「この先は、変わる」
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ジョーは、
わずかに頷く。
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しばらく歩く。
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同じ景色が、
続く。
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草原。
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風。
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変わらない。
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ふと。
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足が、
わずかに緩む。
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踏み固められた地面。
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焼けた跡。
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わずかに残る、
黒ずみ。
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何もない。
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だが、
確かにそこにあった場所。
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ジョーは、
一瞬だけ視線を落とす。
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何も言わない。
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そのまま、
歩く。
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後ろの足音も、
変わらない。
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その時。
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トールの足が、
わずかに止まる。
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視線が、
地面をなぞる。
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乾いた土。
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焼けた跡の縁。
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ほんのわずかに、
崩れたような跡。
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「……」
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トールの表情が、
わずかに変わる。
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そして、
低く呟く。
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「……また近づいてきてるな」
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ジョーは、
横目で見る。
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「……何だ、それ」
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短く聞く。
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トールは、
一瞬だけ迷う。
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だが、
小さく息を吐く。
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「……気にしなくていい」
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少しだけ、
言い方が柔らかい。
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そのまま、
歩き出す。
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だが、
歩幅が、
わずかに変わる。
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周囲を見る目も、
変わっている。
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ジョーは、
何も言わない。
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だが、
視線だけが、
少し鋭くなる。
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「……まだか」
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ジョーが言う。
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トールは、
軽く頷く。
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「村から二時間くらいだ」
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「歩きでな」
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少しだけ、
言葉を選ぶ。
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「だから……何かあっても戻れる」
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ジョーは、
短く返す。
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「近いな」
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それだけだった。
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しばらく歩き、
うっそうと茂る森が見えてきた。
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その時だった。
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草が、
揺れた。
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小さく。
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風ではない。
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何かが、
動いた。
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トールの足が、
止まる。
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視線が、
一点に集まる。
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「……出たな」
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低く言う。
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草の隙間。
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透明に近い、
塊。
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ゆっくりと、
形を変えながら、
こちらへ向かってくる。
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ジョーは、
目を細める。
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「……あれか?」
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確認するように言う。
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トールが、
わずかに頷く。
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前に出る。
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躊躇はない。
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いつの間にか、
手には剣が握られていた。
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足を踏み込み、
斜めに振り抜く。
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刃が、
塊を裂く。
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ぬるり、とした感触。
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そのまま、
切り裂かれる。
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塊が、
崩れる。
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形を失い、
広がり、
消えた。
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何も残らない。
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トールは、
軽く息を吐く。
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「……こんなもんだ」
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振り返る。
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ほんの少しだけ、
反応を待つように。
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ジョーは、
その跡を見ていた。
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地面。
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何もない。
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痕跡も、
残っていない。
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ほんの一瞬だけ、
視線を落とす。
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そして、
口を開く。
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「……面白いな、異世界って」
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トールが、
わずかに眉を寄せる。
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「……異世界?」
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ジョーは、
視線を外したまま、
短く返す。
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「……なんでもない」
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風が、
吹いた。
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村の中とは、
違う風だった。




