第一章 最終話 外へ
朝。
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風は、
変わらず吹いている。
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だが、
どこか違っていた。
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村の中。
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火を扱う者の手が、
変わっている。
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火を使う前に、
水と藁を用意する。
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燃える前に、
止める。
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誰も、
焦らない。
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誰も、
無防備に近づかない。
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火を、
恐れてはいない。
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だが、
知ろうとしている。
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その中で。
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ジョーは、
口を出さない。
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だが、
止めもしない。
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誰かがやり方を間違えれば、
一歩だけ前に出る。
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「違う……こうやる」
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短く言い、
手を動かす。
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無駄がない。
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それを見て、
周りが覚える。
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それだけだった。
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誰もが、
勝手に真似している。
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それでいい。
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それが、
残るということだった。
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少し離れた場所。
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トールが、
一人でいた。
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視線は、
地面に向いている。
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手には、
濡れた藁。
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やり方は、
覚えている。
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だが、
まだぎこちない。
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何度も、
試している。
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失敗する。
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やり直す。
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その繰り返しだった。
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足音。
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ダンだった。
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「……まだやってるのか」
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トールは、
顔を上げない。
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「……分かってるつもりだった」
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小さく言う。
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「でも、違った」
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握る手に、
力が入る。
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「分かってなかった」
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ダンは、
何も言わない。
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ただ、
横に立つ。
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しばらくして、
口を開く。
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「……なら」
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短い言葉だった。
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トールが、
わずかに顔を上げる。
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「出来る奴に学べ」
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視線は、
前を向いたまま。
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「意地張っても、無駄だ……」
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トールは、
黙る。
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悔しさが残る。
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だが、
それ以上に、
残っているものがあった。
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「それしか無いか……」
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小さく、
呟く。
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立ち上がる。
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濡れた藁を、
そのまま落とし、
歩き出す。
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迷いはない。
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向かう先は、
決まっている。
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村の中央。
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集会所。
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その中では、
ジョーが立っていた。
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村長と、
向かい合っている。
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空気は、
静かだった。
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張り詰めてもいない。
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だが、
軽くもない。
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「……見させてもらった」
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村長が言う。
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短く。
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だが、
確かに見ていた者の言葉だった。
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「……火の扱いを、知っているな」
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一瞬の、静寂。
そして繋げるように言う。
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「誰よりも」
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静かに、
言い切る。
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否定も、
迷いもない。
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ただの事実として。
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ジョーは、
何も言わない。
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否定もしない。
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ただ、
受け止めている。
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村長は無表情のまま、
わずかに目を細める。
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「利用させてもらう」
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「……村も、少しはマシになった」
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ぼそりと、
付け足す。
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ジョーは、
わずかに視線を動かす。
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外。
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村の様子が、
見えている。
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何も言わない。
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だが、
分かっている。
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「この村に限らん」
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村長が続ける。
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「外も見てこい」
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静かに言う。
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「……お前の事だ、他にもあるんだろ」
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試すように。
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値踏みするように。
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だが、
どこか期待も混じる。
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ジョーは、
一瞬だけ考える。
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確かに他にもある……が。
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この世界に通用するかは、
疑問だ。
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「……どうだかな」
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短く返す。
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扉の外。
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トールが立っていた。
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話は、
聞こえている。
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拳を、
握る。
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そして。
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扉を、
押した。
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開く。
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中に入る。
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そしてトールは、
ジョーを見る。
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まっすぐに。
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そして。
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「……俺も連れてってくれ」
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少しだけ、
声が低い。
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だが、
逃げてはいない。
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頭も、
下げない。
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それでも。
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意地は、
もうない。
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ジョーは、
少しだけ目を細める。
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一瞬だけ、
トールを見る。
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そして。
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「……見て覚えられるなら」
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短く言う。
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続ける。
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「ついて来れるのか?」
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トールは、
頷く。
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迷いはない。
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「……行く」
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それだけだった。
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外。
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風が、
吹いている。
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村の外へと続く道。
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もう、
止まらない。
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物語は、
外へ向かう。
なかなか異世界感が出せてませんが、
これで第一章終わりです。
第二章から異世界感を出していきますので、
ジョー達の次なる物語を楽しみにしていて下さい。




