第一章 第14話 トールの再現
ダンの家の前。
---
昼。
---
風が、吹いている。
---
乾いた空気。
---
草が揺れる。
---
トールは、
その場に立っていた。
---
落ち着かない。
---
視線が、
揺れる。
---
リーネ。
---
ジョー。
---
また、
リーネ。
---
「……なんなんだよ」
---
小さく呟く。
---
何か言おうと口を開き……
そして閉じた。
---
だが、
次の瞬間。
---
「だったら!」
---
声が跳ねた。
---
「みんなの前で証明してやる!」
---
空気が止まる。
---
リーネが、
顔をしかめる。
---
「……やめなよ」
---
だが、
トールは止まらない。
---
「コイツが本当にすげぇのかどうかだよ!」
---
ジョーを指す。
---
ジョーは、
何も言わない。
---
ただ、
見ている。
---
ダンが口を開く。
---
「……場所を選べ」
---
トールの脳裏に、
昨日の馬小屋が蘇った。
---
―――
---
少し離れた草地。
---
乾いた草が広がっている。
---
風は、
弱い。
---
騒ぎを聞いた村人たちが、集まってくる。
---
ざわめき。
---
視線。
---
その中心に、
トール。
---
ジョーは、
少し離れて立っている。
---
止めない。
---
何も言わない。
---
ただ、
見ている。
---
「……やるぞ」
---
火打ち石を鳴らす。
---
火がつく。
---
乾いた草に、
移る。
---
じわりと、
煙が上がる。
---
トールは、
一歩踏み込む。
---
燃え始めた草を見る。
---
そして、
足で踏みつけた。
---
ぐしゃ、と潰す。
---
煙が広がる。
---
「こうすれば、消えるだろ」
---
さらに踏む。
---
踏み荒らす。
---
火は、
消えない。
---
逆に、
広がる。
---
潰された草から、
火の粉が別の場所に移る。
---
風に乗る。
---
「えっ……なんで……」
---
焦り。
---
トールは、
近くの藁を掴んだ。
---
水に突っ込む。
---
濡らす。
---
それを、
火の中へ投げた。
---
じゅ、と音がする。
---
一瞬、
火が弱まる。
---
「……ほら!」
---
だが。
---
次の瞬間。
---
周囲の草に、
火が移る。
---
別の場所で、
燃え上がる。
---
「……っ!?」
---
想定が、
崩れる。
---
広がる火。
---
増える煙。
---
呼吸が乱れる。
---
「……っ、げほっ!」
---
咳き込む。
---
目を押さえる。
---
視界が、
揺れる。
---
「……くそ……!」
---
何をすればいいか、
わからない。
---
足が止まる。
---
その場に、
立ち尽くす。
---
火だけが、
広がっていく。
---
「トール!!」
---
ダンだった。
---
一気に踏み込む。
---
腕を掴む。
---
「離れろ!!」
---
引き剥がす。
---
トールは、
抵抗すらできない。
---
引きずられる。
---
外へ。
---
他の男たちも動く。
---
一気に距離を取る。
---
安全圏まで、
引き離す。
---
トールは、
地面に崩れた。
---
咳き込みながら、
火を見る。
---
その時にはもう、
ジョーは動いていた。
---
静かに、
踏み込む。
---
視線が変わる。
---
燃えている場所。
---
燃えていない場所。
---
風の向き。
---
火の流れ。
---
すべて、
見ている。
---
足元の草を抉るように蹴り、
地肌を露わにしていき、
---
水に浸した藁を、
次々と投げる。
---
火の際へ。
---
押し込む。
---
じゅ、と音がする。
---
蒸気が立つ。
---
火の進みが、
止まる。
---
繰り返す。
---
確実に。
---
無駄がない。
---
やがて。
---
火は、
消えた。
---
静寂。
---
風だけが、
通る。
---
誰も、
動かない。
---
トールは、
地面に座ったまま、
動けなかった。
---
視線は、
燃え跡に向いている。
---
自分がやったこと。
---
理解している。
---
ゆっくりと、
ジョーを見る。
---
何も言えない。
---
ジョーは、
何も言わない。
---
ただ、
火の跡を見ていた。
---
そして、
一言。
---
「……見えてねぇんだよ……」
---
静かに言った。
---
風が吹く。
---
草葉の焦げた、
あの臭いが漂っていた。




