第一章 第13話 距離
昼前だった。
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風は、
少しだけ弱まっている。
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ダンの家。
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裏手の馬小屋には、
まだ焦げた匂いが残っていた。
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ジョーは、
その近くに立っている。
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視線は、
周囲に向いていた。
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地面。
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風。
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草の動き。
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その全てを、
確かめている。
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「……あの」
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声がした。
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振り向く。
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リーネだった。
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手には、
布に包まれたもの。
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少しだけ、
躊躇っている。
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「……助けてくれて、ありがとう」
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小さく言った。
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「……別に」
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短く返す。
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リーネが、
少しだけ困ったように笑う。
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「これ……」
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包みを差し出す。
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「焼いたの」
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ジョーは、
それを受け取る。
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布を開く。
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素朴なパンだった。
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少しだけ、
焦げ目がついている。
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ジョーは、
一瞬だけそれを見る。
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「……ありがとう」
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短く言った。
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リーネの表情が、
ほっと緩む。
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その時だった。
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「それよりも……さ」
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トールだった。
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少し間を置いて、
口を開く。
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「なんであんな事が出来るんだ?」
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ジョーを見る。
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まっすぐに。
しかし、訝しげな目で。
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ジョーは、
一瞬だけ視線を向ける。
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「俺がやるべき事をしたまでだ」
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それだけ。
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トールは、
「……ふーん」と言う。
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納得していない。
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だが、
それ以上言えない。
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視線が、
パンに落ちる。
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少しだけ長く、
見ている。
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何か言おうと口を開き……そして閉じた。
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タイミングが分からない。
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ダンは、
その一連を見ていた。
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壁にもたれ、
腕を組んでいる。
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何も言わない。
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ただ、
理解している。
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トールの目。
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リーネの反応。
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ジョーの距離。
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すべてを。
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小さく、
だかハッキリと、
口を開いた。
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「……なにはともあれ」
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視線を、
ジョーに向ける。
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「姪を助けてくれた事に礼を言う」
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短い言葉だった。
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だが、
十分だった。
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ジョーは、
わずかに視線を向ける。
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「それが俺のやる事だからな」
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淡々と答える。
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トールの表情が、
わずかに変わる。
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リーネを見る。
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そして、
ジョーを見る。
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「……お前はさ」
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少しだけ、
声が低くなる。
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「助けてもらって……どう思ってんだよ」
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リーネに向けた言葉だった。
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一瞬、
空気が止まる。
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リーネは、
言葉を失う。
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「どうって……そんなの……」
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視線が、
わずかに揺れる。
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ジョーに向きかけて、
止まる。
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「助けてもらっただけだよ」
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小さく言った。
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トールは、
それを聞いて——
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何も言わない。
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ジョーは、
パンを手にしたまま、
周囲を見る。
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会話は、
聞いている。
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だが、
入らない。
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優先は別にある。
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風。
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水。
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地形。
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この場所を、
把握すること。
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人の感情は、
後回しだった。
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距離があった。
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埋まらない、
温度の違う距離が、
三人の間にあった。




