第一章 第12話 掟
村の中央。
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簡素な建物の中。
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木の長机を囲むように、
数人の男が座っていた。
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誰も、笑っていない。
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空気は、
張り詰めていた。
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その中心に、
ガルドが立っている。
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腕は下げたまま。
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だが、
視線は逸らさない。
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「……自分で考えたのか?」
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低い声。
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村長だった。
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年老いている。
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だが、
背は曲がっていない。
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視線は鋭い。
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ガルドを、
真っ直ぐに見ている。
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「監視しろと、言ったはずだ」
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ガルドは、答えない。
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沈黙。
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だが、
それが答えだった。
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「……理由は」
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村長が続ける。
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ガルドは、
わずかに息を吐いた。
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「……村の掟に従ったまでだ」
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短く言い、続けた。
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「村に入れる前に、見極める必要があった」
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誰かが、
小さく息を漏らす。
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「それで、あの騒ぎか」
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別の男が言う。
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責めるような声。
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ガルドは、
視線を逸らし、
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「悪かったよ……」
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と、小さく言った。
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否定しない。
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その時だった。
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「……掟には、従っている」
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村長だった。
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全員の視線が、
そちらに向く。
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「怪しい人間を疑え」
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静かに言う。
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「それが、この村の掟だ」
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誰も、
否定しない。
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事実だった。
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「ガルドは、それに従った」
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短く結論づける。
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「ならば、咎める理由はない……か……」
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場が、
静まり返る。
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納得ではない。
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だが、
反論もない。
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村長の言葉は、
それだけ重かった。
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ガルドは、
わずかに目を伏せる。
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安堵ではない。
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ただ、
受け止めている。
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「……だが」
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村長が続ける。
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「結果は見たな」
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ガルドは、
何も言わない。
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だが、
わかっている。
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「あの男は」
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村長の視線が、
遠くを見る。
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「……火を知っている」
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誰かが、
息を呑む。
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言葉の意味が、
重い。
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「扱いを誤れば、村が全滅する」
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静かに言う。
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「だが」
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一拍。
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「使い方を誤らなければ、守る力にもなる」
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その場の空気が、
変わる。
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疑いだけではない。
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可能性。
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それが、
初めて言葉になった。
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「……どうするんだ」
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誰かが問う。
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村長は、
ゆっくりと目を閉じる。
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一瞬だけ。
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そして、
開いた。
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「中に入れる」
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ざわめきが走る。
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「ただし」
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一言で、
それを止める。
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「監視はつける」
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視線が動く。
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誰に向けられるか、
誰もが理解していた。
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「トール」
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名を呼ぶ。
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少し遅れて、
巨躯の男が顔を上げる。
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「……はい」
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「お前が見ろ」
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短い命令。
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トールは、
一瞬だけ迷う。
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だが、
頷いた。
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「……わかった」
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「ダン」
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続けて呼ぶ。
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奥にいた男が、
顔を上げる。
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「お前もだ」
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「……まだ、見るのか」
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否定はない。
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ただ、
受け入れる。
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ガルドは、
その様子を見ていた。
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何も言わない。
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だが、
表情が、
わずかに変わる。
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「ガルド」
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最後に、
名を呼ばれる。
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「……なんだ」
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短く返す。
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「お前は、村を出て外を見ろ」
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一拍。
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「見聞を広めろ」
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それだけだった。
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一瞬。
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理解が遅れる。
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だが、
すぐに分かる。
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「……ああ」
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低く答える。
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命令ではない。
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役割だった。
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会議は、
それで終わった。
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誰も、
余計な言葉は発さない。
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ただ、
それぞれが動き出す。
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村の中に、
新しい異物を抱えたまま。




