第一章 第11話 見極め
朝だった。
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風は、
変わらず吹いている。
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ダンの家の裏手。
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馬小屋の近く。
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少し離れた場所から、
複数の声が聞こえる。
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3人ほど、井戸端会議をしてる。
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乾いた草と、
藁が積まれている場所。
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その中に、
四人の姿があった。
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ガルド。
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ダン。
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トール。
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そして、
ジョー。
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「……で」
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ガルドが口を開く。
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「昨日の続きだ」
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視線は、
ジョーに向いている。
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「大したことやったみたいな顔してたが」
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鼻で笑う。
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「もう一回やってみろよ」
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ガルドは、
後ろを振り返る。
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リーネが立っていた。
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手には、
小さな鍋。
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「ちゃんと持ってきたな。」
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それだけ言う。
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リーネがガルドを睨み、一言……
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「……最っ低」
と昨日調合してた、中身入りの鍋を渡す。
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だが、
ガルドは気にしない。
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鍋を地面に置く。
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中の油が揺れる。
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火打ち石を鳴らす。
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火がつく。
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じわり、と煙が上がる。
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目にくる煙。
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独特の匂い。
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ガルドは、
そのまま踏み込んだ。
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煙の中へ。
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「何ともねぇ——」
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言い切る前に、
顔を歪める。
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「…ぅあっ!…げほっ!」
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目を押さえ、咳き込む。
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煙が絡みつく。
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その時だった。
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足が鍋に触れ、傾いた。
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油が溢れ……火が弾けた。
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「——っ!?」
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小さな火が、
弾かれ……飛ぶ。
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乾いた草へ。
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そして、
すぐ隣の藁へ。
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「おい——!!」
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トールの声が響く。
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火が、移る。
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一瞬で、
燃え上がる。
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乾いた藁が、
音を立てて燃える。
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その瞬間、
ダンが動いた。
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「トール!ガルド!」
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馬小屋へ駆ける。
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中で、馬が暴れている。
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鼻を鳴らし、
蹄で地面を打ちつける。
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煙に反応している。
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「落ち着け……!」
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手綱を掴む。
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強引に引く。
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抵抗する。
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だが、
引く。
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外へ。
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引きずるように、
連れ出す。
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「早く離せ!外だ!」
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あたふたしながら縄を解き……
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二人で押し出す。
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馬が、
外へ出た。
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一定の距離まで引き離し、
ようやく手綱を離す。
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その直後だった。
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後わずかな藁に、
火が移る。
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「……」
ガルドは立ち尽くしていた。
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その時。
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「……落ち着け!」
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ジョーだった。
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すでに動いている。
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馬小屋の中へ踏み込み、
近くに立てかけてあった鋤を掴み、
燃えている藁と、
まだ燃えていない藁を、
強引に分ける。
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ひたすら掻き分け、
押しのける。
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火の進む先を、
断ち切る。
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「水!たくさんだ!」
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短く、強く命じる。
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トールが走る。
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共用井戸へ、
迷いなく駆け出した。
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ジョーは、
鋤を振るい続ける。
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火と、
燃えるものを、
切り離す。
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空気を読んでいる。
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風を見ている。
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広がる前に、
止める。
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トールが戻る。
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桶いっぱいの水がくる。
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ジョーは、
近くの藁を掴む。
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それを、
水に突っ込んだ。
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しっかりと、
濡らす。
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引き上げる。
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そのまま、
火の際に投げ、鋤で押し込む。
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じゅ、と音がした。
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蒸気が立つ。
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燃え広がろうとする火が、
止まる。
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「直接かけるな!」
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鋭く言う。
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「同じように!」
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弾けば、
広がる。
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理解している。
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慎重に。
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確実に。
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煙が、上がる。
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だが、
次第に弱まる。
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やがて。
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火は、
消えた。
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静寂。
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誰も、
動かない。
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ガルドは、
その場に立ったまま、
動けなかった。
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視線は、
燃え跡に向いている。
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自分がやったこと。
……動けなかったこと。
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理解している。
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ゆっくりと、
ジョーを見る。
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何も言えない。
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ただ、
息を呑む。
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ジョーは、
何も言わない。
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ただ、
火の跡を見ていた。
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そして、
一言。
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「……火、甘く見るな」
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静かに言った。
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草葉の焦げた、
あの臭いが漂っていた。




