第一章 第10話 見立て
夜は、静かだった。
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風の音だけが、
外を流れている。
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馬小屋から、
少し離れた場所。
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ダンの家の裏手。
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二人の男が、
立っていた。
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トールと、
ダン。
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灯りはない。
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だが、
互いの姿は分かる。
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しばらく、
二人は口を開かなかった。
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やがて、
トールが言う。
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「……あいつ」
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言葉が、
続かない。
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探している。
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うまく言えない。
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ダンは、
急かさない。
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待つ。
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「……変だ」
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ようやく出た言葉だった。
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ダンは、
何も言わない。
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続きを待つ。
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「煙の中、普通に入った」
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「迷いもなかった」
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「火、見てた」
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「煙じゃなくて」
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途切れ途切れの言葉。
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だが、
核心を突いている。
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ダンが、
小さく頷く。
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「続けろ」
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短く言う。
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トールは、
眉をひそめる。
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「……なんて言えばいいか、分かんねぇけど」
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言葉を探す。
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「怖がってねぇ」
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「火も、煙も」
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静けさの中に、
その言葉が落ちる。
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ダンの目が、
わずかに細くなる。
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理解している。
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ダンは、
視線を馬小屋へ向ける。
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暗がりの中。
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気配だけがある。
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「……お前はどう感じた?」
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静かに問う。
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トールは、
少しだけ考える。
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そして、
ゆっくりと口を開く。
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「リーネを、助けてくれた」
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短い言葉だった。
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だが、
迷いはなかった。
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ダンは、
すぐには答えない。
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視線を、
馬小屋から外さない。
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「……ああ」
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短く返す。
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だが、
その一言には、
重さがあった。
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理解している。
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だが、
それで終わりではない。
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「……だからこそだ」
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低く言う。
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トールが、
視線を向ける。
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「目を離すな」
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静かな命令。
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「分からねぇやつが、一番危ねぇ」
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トールは、
黙って頷いた。
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その時だった。
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「……納得したわけじゃねぇ」
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不意に、
別の声がした。
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トールが振り返る。
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暗がりの中。
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いつの間にか、
もう一人立っていた。
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ガルドだった。
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腕を組み、
二人を睨んでいる。
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「助けたからって、信用できるとは限らねぇ」
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低い声。
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苛立ちを、
押さえている。
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「……様子見って顔じゃねぇな」
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ダンが言う。
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ガルドは、
鼻で笑った。
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「様子なんて見てどうする」
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一歩、踏み出す。
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「確かめりゃいい」
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短く、
言い切る。
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トールの眉が動く。
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「……どうやって」
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ガルドは、
少しだけ口元を歪めた。
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「やり方はいくらでもある」
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それだけ言った。
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風が吹く。
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馬小屋の隙間が、
わずかに鳴る。
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中の気配は、
動かない。
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だが、
確かにそこにいる。
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夜は、
まだ長かった。




