第一章 第9話 仮の寝床
集会所を出ると、
空気が変わった。
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外の風。
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だが、
視線は変わらない。
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村人たちが、
遠巻きに見ている。
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ジョーを。
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声はない。
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だが、
十分だった。
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トールが、
ダンを見る。
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「……ダンの家でいいか?」
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ダンは、
一瞬だけジョーを見る。
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それから、
短く答えた。
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「……構わん」
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ダンが、
先に歩き出す。
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「こっちだ」
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低い声だった。
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ジョーは、
何も言わずついていく。
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トールが横に並び、
ダンが少し前を行く。
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監視だった。
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村の中を進む。
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家が並ぶ。
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人の気配。
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生活の匂い。
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だが、
どこか遠い。
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自分の場所ではない。
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やがて、
一軒の家の脇で、
ダンが足を止める。
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そのまま、
裏手へ回る。
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ジョーも続く。
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そこにあったのは、
馬小屋だった。
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藁の匂い。
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湿った空気。
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木の軋む音。
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馬が、
ゆっくりと首を動かす。
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ジョーを見る。
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逃げない。
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だが、
近づきもしない。
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ダンが言う。
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「ここだ」
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それだけだった。
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トールが、
小さく呟く。
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「……だろうな」
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ダンは答えない。
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当然のことだった。
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家には入れない。
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それが、
今の扱いだった。
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ジョーは、
中に入る。
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藁の上。
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寝るには十分だった。
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文句はない。
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トールが、
少し迷う。
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何か言おうとして、
やめる。
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代わりに、
短く言った。
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「……水、置いとく」
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入口に、
水の入った容器を置く。
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それだけだった。
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ダンが、
一歩下がる。
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「騒ぐな」
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低く言う。
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「余計なこともするな」
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ジョーは、
頷くだけだった。
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それで、
会話は終わる。
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二人が、
離れていく。
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足音が、
遠ざかる。
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静けさが戻る。
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馬が、
小さく鼻を鳴らす。
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風が、
隙間から入る。
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ジョーは、
横になる。
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藁の感触。
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悪くない。
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だが、
落ち着く場所でもない。
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目を閉じる。
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眠れるかどうかは、
分からない。
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ただ、
体は休める。
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それでいい。
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外の音が、
かすかに聞こえる。
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ここは、
まだ外だった。




