第一章 第6話 視線
歩き出す。
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草を踏む音だけが、一定の間隔で続く。
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誰も、何も言わない。
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風の音だけがする。
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ジョーは、後ろを見ない。
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知らない場所。
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知らない人間。
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「……」
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嫌な予感が、消えない。
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少し先を、ガルドが歩いている。
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距離を取っている。
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振り返らない。
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だが、
気にしていないわけではない。
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足の運びが、早い。
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伝えに行っている。
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それが分かる。
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沈黙を破ったのは、リーネだった。
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「あの……」
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小さな声。
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だが、
確かに届く。
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ジョーは反応しない。
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続ける。
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「さっきは、その……助けてくれて、ありがとう」
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短い言葉。
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だが、
嘘はない。
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ジョーは、少しだけ視線を向ける。
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「……気にするな」
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それだけ答えた。
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会話は続かない。
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トールが、その横で歩いている。
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何度か、ジョーを見ている。
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何かを考えている。
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だが、
言葉にはしない。
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やがて。
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景色が変わる。
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草原の先。
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踏み固められた道。
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人の手が入った痕跡。
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「……村だ」
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トールが、ぽつりと呟く。
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ジョーは、足を止めない。
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視線だけを上げる。
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入口。
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その手前。
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人影が、ある。
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一人じゃない。
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複数。
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動かない。
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こちらを見ている。
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「……」
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空気が、変わる。
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リーネの足が、わずかに止まる。
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トールの表情が、固くなる。
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ガルドが、その前に立っている。
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すでに、話は通っている。
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だが。
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歓迎ではない。
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中央に、一人。
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年配の男。
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その左右に、数人。
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手には、農具。
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か……あるいは、それに近いもの。
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だが……持ち方が違う。
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いつでも使える構え。
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ジョーは、足を止めた。
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距離を測る。
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数歩。
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詰めれば、届く。
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向こうも同じだ。
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視線が、集まる。
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無言。
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誰も口を開かない。
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その沈黙を破ったのは、
中央の男だった。
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「……そいつか」
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低い声。
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探るような目。
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値踏みする視線。
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ジョーは、答えない。
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ただ、
その場に立つ。
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動かない。
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風が吹く。
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草が揺れる。
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その中で、
視線だけが、ぶつかっていた。




