第一章 第5話 余熱
煙は、もう上がっていない。
---
焦げた匂いだけが、わずかに残っている。
---
風が吹く。
---
草が揺れる。
---
だが、
火は、戻らない。
---
ジョーは、その場に立ったまま、しばらく動かなかった。
---
視線は、地面に落ちている。
---
焼けた場所。
---
黒く変色した草。
---
その周囲。
---
「……」
---
周囲の草に、静かに水を撒き始めた。
---
じわり、と色が変わる。
---
乾いていた草が、水を吸う。
---
風が、まだ吹いている。
---
「……」
---
手を止めない。
---
黙々と、水をかける。
---
……火は、消えた後も危ない。
---
トールが、その様子を見ている。
---
「……まだ、やるのか?」
---
素直な疑問だった。
---
ジョーは、視線を上げない。
---
「終わってない」
---
短く言う。
---
それだけで、トールは口を閉じた。
---
リーネは、少しだけ顔を伏せる。
---
「……騒ぎにしてごめん」
---
小さな声だった。
---
ジョーは、何も言わない。
---
ただ、
水を撒き終えた場所を、もう一度見る。
---
問題はない。
---
そう判断して、ようやく手を止めた。
---
ガルドは、少し離れた場所で立っている。
---
腕を組んだまま、
何も言わない。
---
だが、
視線だけは外さない。
---
ジョーを見ている。
---
値踏みするように。
---
探るように。
---
風が、また吹いた。
---
草が揺れる。
---
もう、
煙の気配はない。
---
それでも、
誰もすぐには動かなかった。




