第一章 第4話 残り火
足音が近づいてくる。
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草を踏み分ける音。
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「持ってきた!」
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トールだった。
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両手で抱えるように、水の入った容器を持っている。
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息は上がっていない。
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ジョーは、それを一瞥した。
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「そこ置け」
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短く言う。
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トールは、言われた通りに置いた。
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ジョーはしゃがむ。
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焦げた地面に手をかざす。
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熱が、まだ残っている。
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「……やっぱりな」
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小さく呟く。
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表面は消えている。
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だが、
中は違う。
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「……そこ、踏むな」
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近寄ろうとした、トールの足が止まる。
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「まだ熱、残ってる」
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足元を指す。
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焦げた地面。
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黒くなった草。
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見た目は消えている。
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だが、中は違う。
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土の隙間から、まだ煙が出ている。
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「……燃え直すぞ」
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短く言う。
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トールが、ゆっくりと足を引いた。
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ガルドが、眉をひそめる。
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何も言わない。
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だが、
視線は鋭い。
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その辺の枝で、地面に小さく穴を開ける。
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数秒のうちに、火が顔を出した。
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トールの目が見開かれる。
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「……わかった」
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短く頷く。
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ジョーは、まず土をかける。
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覆うように。
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押さえ込むように。
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煙が、一瞬だけ強くなる。
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だが、
すぐに弱まる。
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「……ここだ」
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一点を指す。
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そこから、まだ細く煙が出ている。
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「そこに水」
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トールが、水をかける。
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じゅ、と音がして――
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泥となった部分が、ほんの少し跳ねた。
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蒸気が立ち上る。
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ジョーは目を細める。
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「一気にかけるな」
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トールが手を止める。
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「少しずつだ」
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慎重に。
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確実に。
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煙が、完全に消えるまで。
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繰り返す。
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やがて。
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煙は、止まった。
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ジョーは、もう一度手をかざす。
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もう、触れられる。
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「……よし」
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短く言った。
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立ち上がる。
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トールが、ポツリと言う。
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「……すげぇな」
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素直な感想だった。
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ガルドは、腕を組んだまま黙っている。
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だが、
さっきとは違う目で見ていた。
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やがて、頭を掻きむしる。
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リーネは、一歩近づく。
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「……ねぇ」
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ジョーを見る。
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「なんで分かるの?」
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純粋な疑問だった。
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ジョーは、少しだけ間を置いた。
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答えは、簡単だ。
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だが、
ここでは通じない。
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「……役目だからだ」
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それだけ言った。
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三人の反応は、それぞれ違った。
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トールは納得した顔をする。
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リーネは、さらに興味を持つ。
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ガルドは、まだ言葉を探している。
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だが、
否定はしなかった。
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風が吹く。
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もう、
煙の匂いはしなかった。




