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第一章 第3話 判断

沈黙が、続いていた。


---


風が吹く。


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草が揺れる。


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煙の残り香だけが、まだ残っている。


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誰も動かない。


---


だが、


そのまま終わる空気ではなかった。


---


「……で」


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口を開いたのは、ガルドだった。


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「お前、どっから来た」


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疑いのままの声。


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問いというより、詰問に近い。


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ジョーは答えない。


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代わりに、周囲を見る。


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火は、消えている。


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だが、


完全じゃない。


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「……そこ、踏むな」


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トールの足が止まる。


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「まだ熱、残ってる」


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足元を指す。


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焦げた地面。


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黒くなった草。


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見た目は消えている。


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だが、中は違う。


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土の隙間から、まだ煙が出ている。


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「……燃え直すぞ」


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短く言う。


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トールが、ゆっくりと足を引いた。


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ガルドが、眉をひそめる。


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「さっきから何なんだよ、お前」


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苛立ちが混じる。


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「質問に答えろ」


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ジョーは、ようやく視線を向ける。


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「……分からない」


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正直な答えだった。


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ガルドの表情が歪む。


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「は?」


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当然の反応。


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「気付いたら、ここにいた」


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嘘はない。


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だが、


信じられる内容でもない。


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「ふざけてんのか」


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空気が、少しだけ張る。


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その時。


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「……あの」


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リーネだった。


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おずおずと、口を開く。


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「その人……助けてくれたよ」


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小さな声。


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だが、


はっきりとした言葉。


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ガルドが、舌打ちする。


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「だからって信用できるかよ」


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正論だった。


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トールは、黙ったままジョーを見ている。


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評価している目だった。


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ジョーは、興味がない。


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それよりも、


気になることがあった。


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「……水、あるか」


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三人の表情が変わる。


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「水?」


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リーネが聞き返す。


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ジョーは頷く。


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「完全に冷やす」


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足元を見る。


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「中、まだ生きてる」


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理解はされていない。


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だが、


言葉の重さは伝わる。


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トールが、ゆっくりと口を開く。


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「……水なら、ある」


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ジョーは、短く頷いた。


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「持ってこい」


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命令口調だった。


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一瞬、空気が張る。


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だが、


トールは動いた。


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迷いはなかった。


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走る。


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その背中を見て、


ガルドが小さく舌打ちした。


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「なんなんだよ……」


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リーネは、ジョーを見ている。


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さっきとは違う目だった。


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恐れじゃない。


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興味だった。


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ジョーは、


そんなことは気にしていない。


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ただ、


火だけを見ていた。


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「火、甘く見すぎだ」


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さっきと同じ言葉。


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だが、今度は重みが違う。


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リーネが、言葉を失う。


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「だって……あの煙、いつもと違って目が潰れそうだったよ……」


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震えた声で呟いた。


まだ、目を気にするように瞬きをしている。


---


ガルドが鼻で笑う。


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「だから大げさだって言ってんだろ。ただの煙だ」

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