第一章 第2話 違和感
誰も、すぐには動かなかった。
煙は消えた。
火も消えた。
それなのに、
空気だけが、張り詰めたままだった。
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三人の視線が、ジョーに集まっている。
警戒。
疑い。
当然だ。
ジョーもまた、三人を見ていた。
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服装が違う。
素材も、形も。
見たことがない。
道具もない。
装備もない。
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「……」
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沈黙が続く。
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先に動いたのは、トールだった。
一歩、前に出る。
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「お前……誰だ?」
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低い声。
警戒を含んだ問い。
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言葉は――通じた。
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ジョーは、一瞬だけ目を細める。
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(……日本語じゃないのに、分かる?)
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違和感。
だが、今はそれどころじゃない。
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「……通りすがりだ」
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短く答える。
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トールの眉が動く。
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「通りすがりで、あんなこと出来るかよ」
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当然の反応だった。
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ジョーは答えない。
代わりに、周囲を見る。
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青みを失った乾いた草。
風は、ところどころ強く吹いている。
そして……火の跡。
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(この環境で、あの火の扱い……)
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あり得ない。
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視線を、リーネに向ける。
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その足元。
小さな鍋には、炭化した何かが見える。
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原因は、明らかだった。
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「……あんたがやったのか」
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リーネの肩が、ビクッと揺れる。
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「え、あ……その……」
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視線が泳ぐ。
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「調合、してて……」
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言い訳のような声。
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ジョーは、ため息をついた。
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「火、甘く見すぎだ」
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さっきと同じ言葉。
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だが、今度は重みが違う。
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リーネが、言葉を失う。
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ガルドが鼻で笑う。
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「だから大げさだって言ってんだろ。ただの煙だ」
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その一言で、空気が変わる。
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ジョーの目が、わずかに細くなる。
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「ただの煙?」
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静かな声。
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「ここ、風あるだろ」
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誰も答えない。
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「乾いてる」
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足元の草を軽く踏む。
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「これ、燃え移ったら止まらない」
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トールの表情が、少しだけ変わる。
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「……そんなに、危ねぇのか」
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ジョーは、短く頷く。
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「一気に広がる」
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それだけだった。
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ガルドは、まだ納得していない顔をしている。
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だが、何も言わない。
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沈黙が戻る。
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風が、草を揺らす。
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煙の残り香が、流れていく。
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ジョーは、もう一度周囲を見た。
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見覚えがない。
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地形も。
空気も。
人も。
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何もかもが、違う。
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「……ここじゃ、普通なのか」
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誰に向けたわけでもない言葉。
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だが、その場の全員が、聞いていた。




