第一章 第1話 誰だ?(後編)
気が付くと、焦げた匂いがした。
風に乗って、流れてくる。
ジョーは足を止めた。
鼻で、空気を吸う。
煙だ。
しかも、ただの煙じゃない。
香草か、油分を含んだ何かが燃えている。
目がシパシパする、嫌な煙だった。
視線を上げる。
草原の先に、白い煙が広がっている。
量は多くない。
だが、
「……広がり方が悪い」
風を見た。
流れている。
ゆっくりだが、確実に。
乾いた草。
燃え移れば、止まらない。
ジョーは歩き出した。
速くはない。
だが、迷いがない。
近づくにつれて、状況が見えてくる。
火。
小さい。
だが、生きている。
その周りに、煙。
そして、
「……人、いるな」
煙の中に、影が見えた。
姿勢が高い。
立ったまま、動いている。
「……ダメだな」
小さく呟く。
吸ってる。
あのままじゃ、長くもたない。
ジョーは姿勢を落とした。
腰を低くする。
口元を押さえる。
煙は上に行く。
下は、まだ薄い。
そのまま踏み込む。
視界が白く濁る。
だが、
見えないわけじゃない。
流れを見る。
煙は動いている。
火の位置は、そこだ。
「……風上、どっちだ」
声を出す。
返事はない。
だが、構わない。
風は読める。
煙の流れ。
草の揺れ。
空気の動き。
全部、見えている。
その時、足音がした。
重い足音。
一直線に突っ込んでくる。
「……来るな!」
即座に言う。
踏み荒らされると、火が広がる。
最悪、囲まれる。
視線だけで確認する。
でかい。
だが、今は関係ない。
目の前の火だ。
「……広がる前に、止める」
足元の草を掴む。
乾いている。
使える。
火に近づく。
叩かない。
覆う。
酸素を断つ。
火は、呼吸している。
それを、止める。
じゅ、と音がした。
一瞬、火が強くなる。
だが、
すぐに弱まる。
煙の流れが変わる。
勢いが落ちる。
まだ、終わりじゃない。
「……動くな、煙吸って死ぬぞ」
短く指示する。
余計な説明はいらない。
今は、それでいい。
火はもう弱い。
あと少し。
押さえ込めば、終わる。
完全に覆う。
酸素を断つ。
消える。
煙が、ゆっくりと薄くなっていく。
終わった。
ジョーは、ゆっくりと息を吐いた。
周囲を見る。
人影が、三つ。
全員、こっちを見ている。
警戒。
疑い。
当然だ。
知らない顔。
知らない服。
知らない場所。
……場所?
そこで、ようやく気づく。
見覚えがない。
地形も。
草も。
空気も。
何もかもが違う。
「……ここ、どこだ」




