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第一章 第1話 誰だ?(前編)

ここから異世界編になります。

草原に、薄く煙が広がっていた。


焦げたような匂いが、風に乗って漂う。


その中心で、リーネは顔をしかめていた。


「……また、やっちゃった……」


小さな鍋。

その下で燃える火。

そして、その周囲に広がる煙。


調合は、失敗だった。


本来なら、穏やかに温めるはずだった火は、思ったよりも強くなり、薬草を焦がし、煙だけを残した。


「ちょっと火、強すぎたか……」


リーネは慌てて火を弱めようと、焚き火の中の枝を抜こうとした。


――それがダメだった。


鍋の中身がこぼれ落ち、焚き火に触れた瞬間、燃え広がった。


煙が濃くなり、火勢は強くなる。


風に乗って、じわじわと。


視界が、白く曇る。


「げほっ……」


思わず咳き込む。


その煙を、少し離れた場所から見つけた影があった。


「……なんだ、あの煙」


ガルドだった。


眉をひそめる。


「またあいつか……」


小さく吐き捨てるように言って、煙の方へ向かう。


一方、別の方向から、もう一人。


「リーネ!?」


トールだった。


煙を見た瞬間、顔色が変わる。


考えるより先に、走り出していた。


名前の通りの巨体が、一直線に煙の中へ向かう。


「おい、トール待て!」


ガルドの声が飛ぶ。


だが、止まらない。


煙の中へ、踏み込む。


その時だった。


「……風上、どっちだ」


煙の中から、声がした。


低く、落ち着いた声だった。


トールが足を止める。


「……誰だ?」


煙の奥。


白く濁った空間の中で、何かが動いている。


低い姿勢。


顔の下半分を腕で押さえ、視線だけが鋭く動いている。


煙を見ていない。


その“流れ”を見ていた。


「……来るな!」


声が飛ぶ。


リーネが、反射的に足を止める。


「……動くな、煙吸って死ぬぞ」


短い言葉だった。


だが、その一言で、体が動かなくなる。


男は、迷いなく動いていた。


火の位置を見ている。


煙の流れを見ている。


そして、


「……広がる前に、止める」


そう呟くと、足元の土を掴んだ。


火に近づく。


叩かない。


覆う。


燃えている部分を、押さえ込むように。


酸素を断つように。


火が、一瞬だけ強く揺れた。


だが、


次の瞬間、勢いを失う。


「……え……?」


リーネが呟く。


トールも、動けない。


ただ、見ている。


煙が、少しずつ薄くなっていく。


男は、顔を上げた。


その目が、トールを捉える。


「……来るな!」


短く言う。


「まだ燃えてる」


それだけで、トールの足が止まる。


理解はしていない。


だが、止まった。


やがて。


火は、完全に消えた。


煙も、ゆっくりと空へ逃げていく。


静寂が戻る。


誰も、すぐには言葉を出せなかった。


ただ一人。


後から追いついたガルドだけが、口を開く。


「……大げさだな。ただの煙だ」


男は、それを聞いても振り返らなかった。


ただ、小さく息を吐く。


そして。


「……火、甘く見すぎだ」


そう言った。


その一言だけが、残った。


リーネは、男を見ていた。


トールも、見ていた。


ガルドも、無言で見ていた。


誰も知らない男。


だが。


全員が、同じことを思っていた。


「……誰だ、あいつ」

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