第六章 第11話 接触
北側森林。
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雪を踏む音だけが、
静かに響いていた。
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ハインツを先頭に、
一行は森を進む。
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後ろには、
モンテール自警団員が三人。
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弓持ち。
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槍持ち。
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斧持ち。
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どれも、
北側森林に慣れた顔だ。
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「静かだな……」
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槍持ちの男が、
小さく呟く。
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リゼは、
辺りを見回していた。
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雪。
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木々。
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風。
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森。
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……静か過ぎる。
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ディーターが、
足を止めた。
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「どうした?」
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ハインツが振り返る。
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ディーターは、
森の奥を見ていた。
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「鳥の声がしない」
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その言葉に、
自警団員達も周囲を見る。
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確かに。
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何も聞こえない。
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風の音だけだ。
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斧持ちの男が、
苦笑した。
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「冬だからじゃねぇか?」
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だが。
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リゼは、
険しい顔をしていた。
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しゃがみ込み、
雪へ触れる。
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「……変ね」
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雪の上。
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黒い焦げ跡。
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だが。
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眉を寄せる。
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「燃えた跡はあるのに……炭が無い」
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ハインツが、
眉を寄せた。
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「何だって?」
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「普通なら残るのよ」
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「枝も、灰も、炭も」
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「でも綺麗過ぎる」
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ディーターも、
しゃがみ込んだ。
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黒く焦げた土。
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だが、
燃え広がった形跡が薄い。
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「……何か試してる?」
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低く呟く。
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その瞬間。
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リゼの表情が変わった。
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「待って」
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静かな森。
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居たはずのゴブリン。
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使った筈の火。
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だが。
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「略奪跡が無い」
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皆が、
リゼを見る。
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「普通のゴブリンなら、人里へ降りてる」
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「食料も家畜も狙わないなんて変よ」
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自警団員の槍持ちが、
顔をしかめた。
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「ゴブリンにそんな知恵ある訳……」
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そこまで言って、
言葉が止まる。
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森の奥。
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木々の隙間。
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遠見筒で周囲を見ていたハインツが、
低く呟いた。
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「おい、居たぞ」
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その声に、
全員の空気が張る。
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ハインツは、
隣の弓持ち自警団員へ、
遠見筒を渡した。
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「見えるか」
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自警団員は、
息を殺しながら覗き込む。
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そして。
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顔色が変わった。
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細長い影。
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灰色の肌。
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長い腕。
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そして、
濁った黄色の瞳。
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その姿を見た瞬間。
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弓持ちの自警団員が、
顔色を変えた。
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「まさか……」
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喉が震える。
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「ゴーグ……なのか……?」
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空気が凍った。
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ハインツが、
険しい顔で尋ねる。
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「知ってるのか?」
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弓持ちの男は、
乾いた唇を舐めた。
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「昔話だ……」
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「北の山を越えた先には、鬼が居るって」
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「泉を壊した化け物だ」
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ディーターが、
小さく眉を動かす。
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「泉……?」
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槍持ちの男も、
低く続けた。
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「数十年前、泉が壊された事がある」
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「その時に現れたのが、ゴーグだって……」
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リゼが、
再び森を見る。
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ゴーグ。
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ゴブリンより遥かに大きい。
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だが。
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トロルほど巨大じゃない。
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異様に痩せている。
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なのに。
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ゴブリン達が、
怯えながら従っている。
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まるで、
奴隷のように。
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ディーターが、
小さく顔をしかめた。
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「……嫌な感じだな」
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その時だった。
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ガサリ。
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森の奥で音がした。
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全員が武器を構える。
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次の瞬間。
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ゴブリン達が現れた。
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先を尖らせた木材を抱えている。
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大量に。
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「……何だありゃ」
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斧持ちの自警団員が、
眉をひそめる。
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次の瞬間。
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ゴブリン達が、
一斉にそれを投げ始めた。
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投槍のように舞う木槍。
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こちらに届くのもあれば、
途中でぶつかり、
転がる物も。
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斧持ちの男が、
鼻で笑う。
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「しょせんゴブリンだ」
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「数撃ちゃ当たるってか?」
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飛んできた一本を、
斧で叩き返す。
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別の自警団員も、
剣で弾き飛ばした。
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その時。
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ゴブリンの一匹が、
松明を投げた。
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次の瞬間。
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ドゴォォッ!!
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爆炎。
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木材が、
弾け飛ぶ。
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火炎。
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木片。
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衝撃。
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雪が吹き飛び、
周囲の木々を揺らした。
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「ぐあぁっ!?」
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斧持ちの男が、
吹き飛ばされる。
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剣で弾いた自警団員も、
肩を押さえて倒れ込んだ。
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木片が、
肉へ突き刺さっている。
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ハインツが、
咄嗟に前へ出る。
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「下がれ!!」
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リゼは、
木陰へ飛び込みながら叫ぶ。
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「まだ来る!!」
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その直後。
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次々と木槍が投げ込まれる。
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雪の上を転がる物。
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木へ突き刺さる物。
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そして。
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火が触れる。
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ドゴン!!
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再び爆炎。
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ディーターが、
歯を食いしばった。
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「クソッ……!」
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「なんなんだあれ!」
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森の奥。
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ゴーグは、
薄く口を歪めていた。
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まるで。
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人間達が、
自ら罠へ飛び込むのを、
待っていたかのように。
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ハインツが、
倒れた自警団員を見る。
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傷は深い。
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このまま森で戦えば、
死ぬ。
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「撤退だ!!」
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自警団員達が、
負傷者を抱える。
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リゼが、
後方を警戒しながら叫ぶ。
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「走って!!」
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ゴブリン達の笑い声が、
北側森林へ響いた。
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その奥で。
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ゴーグだけが、
静かに彼らを見ていた。
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まるで。
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人間の反応を、
観察しているように。




