第六章 第9話 焦燥
夜。
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冷たい風が、
モンテールを吹き抜けていた。
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ハインは、
見回りを続けていた。
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腰の剣。
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手には、
松明。
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いつも通りの夜警。
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モンテール自警団の役目は、
外敵への備えだ。
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山から降りてくる魔物。
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森を抜ける魔獣。
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時には、
盗賊。
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剣を持ち、
先頭に立つ。
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それが、
モンテール自警団だった。
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火の見回りは、
そのついで。
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昔から、
そうやって村を守ってきた。
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「団長」
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声。
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振り返る。
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若い団員が、
軽く頭を下げた。
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「南側、異常ありません」
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「あぁ」
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短く返す。
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団員は、
少し迷った後、
口を開いた。
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「ヴァルデンの話、聞きました?」
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ハインの眉が、
僅かに動く。
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「また何か作ったらしくて」
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「水を溜める井戸みたいなのとか」
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「火災担当とか」
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「役割分担までしてるとかで……」
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ハインは、
黙って聞いていた。
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団員は、
苦笑しながら続ける。
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「クベルハイムもそうですけど」
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「最近、変わりましたよねぇ」
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団員は、
夜の山を見ながら続けた。
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「魔物はともかく、魔獣が年々減ってきてるからですかね?」
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少し間を置き。
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苦笑する。
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「……俺達、ここ最近活躍してないっすよね」
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風が吹く。
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松明の火が揺れた。
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「……そうか」
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短く返す。
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団員は、
気付いていなかった。
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ハインの声が、
少し硬かった事に。
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「それに比べると、俺達は……」
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団員が、
困ったように笑う。
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「自警団で御座い!って感じですもんね」
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悪気は無い。
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ただの冗談。
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だが。
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ハインの中で、
何かが引っ掛かった。
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見回り。
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剣。
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夜警。
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魔物退治。
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それを、
誇りにしてきた。
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父の時代。
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モンテールは、
常に脅威へ晒されていた。
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魔物。
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魔獣。
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山を越えて来る脅威。
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だから、
武器が必要だった。
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人手も必要だった。
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その為に、
税も重くなった。
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村人が減った年もある。
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それでも。
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父達は、
戦い続けた。
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守る為に。
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昔。
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モンスターの群れが、
モンテールへ迫った事がある。
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その時。
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父は、
真っ先に剣を取った。
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村人を逃がし、
仲間を前へ出し、
そして。
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最後まで、
退かなかった。
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傷だらけになって。
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……それきり、
帰ってこなかった。
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戦いに行く前。
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父は、
笑って言った。
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「ちょっと、行ってくる」
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だから。
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ハインは、
強くなろうとした。
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剣を振った。
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見回りも欠かさなかった。
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村を守ろうとした。
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なのに。
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評価されるのは、
クベルハイムのやり方だ。
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用水路。
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防火水槽。
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火災担当。
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役割分担。
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最初は、
ただの用水路だったはずだ。
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水不足を減らす為。
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生活を楽にする為。
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だが。
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小火を、
すぐ消せた。
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そこから、
全てが変わり始めた。
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水を備える。
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役割を分ける。
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火を広げない。
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まるで、
戦う前から勝負を終わらせるような考え方。
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今、
村人が見ているのは、
クベルハイムだ。
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備えを語り、
効率を説く。
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なのに。
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今、
人が求めているのは、
剣ではない。
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備え。
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その為の水。
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安心。
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ハインには、
それがどうしても割り切れなかった。
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「俺だって、やってるだろ……」
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思わず、
口から漏れた。
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団員が、
驚いたように振り返る。
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ハインは、
すぐに口を閉じた。
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違う。
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怒っている訳じゃない。
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……いや。
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違わない。
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胸の奥が、
熱かった。
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認められたい。
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父みたいに。
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守ってると、
言われたい。
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ハインは、
強く拳を握った。
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冷たい夜風が、
頬を撫でていく。
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それでも。
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胸の熱だけは、
消えなかった。




