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第六章 第7話 教えと実践

朝。


---


空は、


薄曇りだった。


---


クベルハイム。


---


村の入口。


---


荷を括り付けた馬が、


小さく鼻を鳴らす。


---


その横。


---


一際大きな男が、


手綱を握っていた。


---


トール。


---


村の男達より、


頭一つ抜けた長身。


---


背負った荷すら、


軽そうに見える。


---


その隣では、


小柄な少年が忙しなく動いていた。


---


ルーク。


---


トールの奴隷。


---


細い身体。


---


素早い目。


---


まだ幼さを残している。


---


「トールさん、縄もう一回見ます?」


---


ルークが、


荷台を確認しながら言う。


---


トールは、


軽く鼻を鳴らした。


---


「大丈夫だ」


---


短く。


---


ルークは、


苦笑いする。


---


「トールさん、大丈夫って言って本当に大丈夫じゃない時あるからなぁ……」


---


「あるか?」


---


「あります」


---


即答だった。


---


そのやり取りを見ていたダンが、


小さく息を吐く。


---


「ヴァルデンへ着いたら、ベルンハルトにこれを渡せ」


---


革袋を差し出す。


---


トールが、


受け取る。


---


中には、


用水路の図面。


---


掘削状況。


---


そして、


ノーム達の見立てが書かれていた。


---


ダンは、


さらに続けた。


---


「助力も頼む」


---


「用水路は急いでる」


---


短く。


---


そして。


---


少し間を置いた。


---


「それと」


---


トールが、


視線を向ける。


---


ダンは、


静かに言った。


---


「ジョーが何を成したか、見てこい」


---


風が吹く。


---


トールは、


少しだけ目を細めた。


---


ジョー。


---


火消しの男。


---


変わった知識を持ち、


変わった事ばかり言う男。


---


だが。


---


ヴァルデンは変わった。


---


それだけは、


離れたクベルハイムにも伝わっている。


---


「……分かった」


---


短く答え、


トールは馬へ乗った。


---


ルークも、


慌てて後ろへ飛び乗る。


---


「じゃ、行ってきます!」


---


馬が動く。


---


土を蹴り、


街道へ出る。


---


森道。


---


昼を過ぎても、


空は曇ったままだった。


---


冷たい風が、


枝を揺らす。


---


ルークが、


前方を見ながら呟く。


---


「暗くなるの、早そうですね」


---


トールは、


軽く頷いた。


---


「野営になる」


---


短く。


---


やがて。


---


夜。


---


森は、


静まり返っていた。


---


焚き火。


---


馬。


---


風。


---


ルークが、


薪を動かしていた時だった。


---


ガサリ。


---


茂みが揺れる。


---


トールの視線が、


鋭く動いた。


---


次の瞬間。


---


小さな影が飛び出す。


---


ゴブリン。


---


一体。


---


いや。


---


三体。


---


一体は、


松明を持っていた。


---


残り二体は、


錆びた剣。


---


ボロボロの刃。


---


だが。


---


殺意だけは、


濁っていない。


---


ルークが、


息を呑む。


---


「トールさん……!」


---


だが。


---


トールは、


既に立っていた。


---


長剣を抜く。


---


低く。


---


「下がってろ」


---


ゴブリンが叫ぶ。


---


松明が揺れる。


---


次の瞬間。


---


トールが踏み込んだ。


---


速い。


---


長身から放たれた斬撃が、


最初のゴブリンを切り伏せる。


---


返す刃。


---


二体目。


---


錆びた剣ごと叩き割る。


---


最後の一体。


---


松明を持ったゴブリンが、


悲鳴のような声を上げた。


---


そして。


---


松明を投げる。


---


火が、


飛んだ。


---


乾いた下草へ落ちる。


---


一瞬。


---


本当に一瞬で。


---


火が走った。


---


「っ……!」


---


ルークが、


目を見開く。


---


風。


---


乾いた草。


---


火は、


迷わなかった。


---


燃え広がる。


---


夜の森が、


赤く染まろうとしていた。


---


その瞬間。


---


トールが叫ぶ。


---


「ルーク!」


---


「火から離れた所で、円を描くように土を掘れ!」


---


ルークが、


慌てて地面へ飛び付く。


---


短剣を抜き、


必死に土を掘り返した。


---


トールも、


剣を地面へ突き立てる。


---


土。


---


草。


---


根。


---


力任せに掘り返す。


---


「トールさん!?」


---


焦るルークへ、


トールが叫ぶ。


---


「掘った土を火にかけるんだ!」


---


土を掴み、


炎へ投げる。


---


火が、


一瞬鈍る。


---


「ジョーが教えてくれた!」


---


短く。


---


だが、


力強く。


---


ルークも、


夢中で土を投げた。


---


風が吹く。


---


火が暴れる。


---


それでも。


---


二人は止まらない。


---


掘る。


---


投げる。


---


また掘る。


---


やがて。


---


赤かった炎が、


少しずつ勢いを失っていく。


---


煙。


---


焦げた草。


---


黒くなった地面。


---


そして。


---


最後の火が、


小さく消えた。


---


静寂。


---


ルークが、


その場へ座り込む。


---


トールも、


荒く息を吐いた。


---


しばらくして。


---


トールが、


燃え跡を見ながら呟く。


---


「……やったぜ」


---


小さく。


---


どこか、


信じられないように。


---


「俺にも、できた……」


---


トールは、


小さく燃え跡を見つめる。


---


そして。


---


ジョーに付いていった日を、


思い出していた。


---


火を恐れろ。


---


だが、


目を逸らすな。


---


そう言っていた、


火消しの男。


---


トールは、


静かに息を吐く。


---


間違っていなかった。


---


そう、


確信していた。

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