第六章 第5話 備えの形
朝。
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空気は、
冷たい。
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吐いた息が、
白く流れる。
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ジョー達は、
泉へ向かっていた。
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先頭を歩くのは、
ダン。
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その後ろに、
ジョー。
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そして、
モンテール自警団長ハイン。
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森を抜け、
やがて。
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水の流れる音が聞こえた。
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泉。
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そして。
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掘り進められた、
用水路。
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「……思ったより進んでるな」
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ジョーが、
小さく呟く。
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ハインが、
少し口元を上げた。
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「モンテール側は、もう少しで繋がる」
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誇るように。
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水路沿いでは、
数人の男達が土を運んでいた。
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その中に、
人間より頭一つ小さい影が混ざっている。
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丸い耳。
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土に汚れた手。
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ずんぐりとした体。
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ノーム。
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一人のノームが、
地面に耳を当てていた。
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そして、
ゆっくり立ち上がる。
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「……水の流れは悪くない」
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低い声。
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「だが、少し固めが甘い」
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一拍。
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「土がまだ言う事聞かない」
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ハインが、
眉を寄せた。
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「崩れるってのか?」
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ノームは、
肩をすくめる。
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「この進捗だと……補強が必要だな」
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「やらなきゃ、最初は暴れるぞ」
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水路を見る。
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まだ、
掘り返したばかりの土。
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踏み固められてはいる。
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だが。
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どこか、
脆さが残っていた。
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ダンが、
静かに息を吐く。
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「……だから焦るなって言ったんだ」
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ハインが、
口を閉じる。
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ジョーは、
黙って水路を見ていた。
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流れる水。
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湿り始めた土。
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その時。
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ジョーが、
小さく呟く。
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「……ベルンハルト呼ぶか」
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ダンが、
視線を向けた。
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ジョーは、
続ける。
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「鍛冶だけじゃない」
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「アイツ、建築も出来る」
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一拍。
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「石も木も知ってるドワーフだ」
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「補強なら、ノームとも相性いいだろ」
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ノームが、
少しだけ目を細めた。
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「石を分かるドワーフか」
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短く。
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「なら、話は早い」
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その時。
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別の場所から、
木を打つ音が響いた。
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待機所。
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まだ骨組みだけの建物。
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以前より、
明らかに広くなっている。
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「最初の予定より、二回りは大きいな」
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ジョーが、
見上げながら言う。
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ダンが、
頷いた。
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「人数が増えた」
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「馬も入るし」
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「水桶も置く」
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一拍。
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「狭いと、いざって時に動けなくなる」
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その言葉に、
ジョーは小さく頷いた。
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人が詰まる場所は、
危険になる。
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だからこそ。
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動ける空間が必要だった。
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その時。
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ガルドが、
建物の柱を軽く叩いた。
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「こっちは問題ない」
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短く。
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「問題は時間だ」
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自警団全員分。
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残り、二十四頭。
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少し前、森。
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さらに奥。
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冷たい風が、
木々を揺らしていた。
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ガルド。
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そして、
獣人の女奴隷。
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静かに、
森を進む。
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足音は、
ほとんど無い。
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獣道。
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地面の跡。
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折れた枝。
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獣人の女が、
しゃがみ込む。
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「近い」
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短く。
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ガルドが、
頷く。
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少し先。
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茂みの向こうで、
馬が草を食んでいた。
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野生馬が二匹。
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人を警戒し、
耳を動かしている。
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ガルドが、
片手を軽く上げる。
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獣人の女も、
静かに動きを止める。
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小さく。
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「彼らは、人を深く知らない……」
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風。
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流れ。
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匂い。
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獣人の女が、
静かに位置を変える。
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逃げ道を、
塞ぐように。
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そして。
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獣人の女が、
ゆっくり前へ出る。
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焦らず。
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静かに。
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少しずつ、
距離を詰めていく。
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馬は、
耳を動かす。
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だが。
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逃げない。
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そして。
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そっと首筋へ手を伸ばす。
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「……怖くないよ」
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優しく。
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指先が、
毛並みを撫でる。
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野生馬が、
短く鼻を鳴らした。
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その隙に。
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ガルドが、
静かに縄を掛ける。
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縄が締まり、
馬が、
嘶く。
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だが。
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暴れない。
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やがて。
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二匹は、
大人しく鼻を鳴らした。




