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序章10 燻るもの

 夜。


---


 部屋は静かだった。


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 時計の音だけが、やけに耳に残る。


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 ジョーは、座っていた。


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 何もしていない。


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 ただ、座っている。


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 さっきまでの出来事が、


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 頭の中から離れない。


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 消えない。


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 消えてくれない。


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 あの顔が、


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 焼き付いている。


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 目を閉じる。


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 それでも、見える。


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 消えない。


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 消せない。


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 息が、浅い。


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 胸が、重い。


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 呼吸が、うまく出来ない。


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 煙を吸った時の感覚が、残っている。


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 喉が、焼けるようだ。


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 水を飲む。


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 味が、しない。


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 何も、感じない。


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 ただ、


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 残っている。


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 あの光景だけが、


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 頭の中で、繰り返される。


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 止まらない。


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 止められない。


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 どこかで見た顔だった。


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 そう思った。


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 理由は分からない。


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 だが、


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 引っかかる。


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 ずっと、


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 残っている。


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 煙のように。


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 消えそうで、


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 消えない。


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 燻る。


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 心の奥で、


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 ずっと。


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 机の上に置いた煙草に手を伸ばす。


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 火をつける。


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 吸い込む。


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 言葉に追いつこうと、紫煙が舞い上がる。


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 吐き出す。


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 白い煙が、ゆっくりと広がる。


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 それを、見て煙草を消した。


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 何も考えずに、


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 ただ、見ていた。


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 時間が、分からなくなる。


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 どれくらい経ったのか、


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 分からない。


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 ただ、


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 沈んでいく。


---


 ゆっくりと。


---


 深く。


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 どこまでも。


---


 意識が、沈んでいく。


---


 音が、遠くなる。


---


 感覚が、薄れていく。


---


 何も、分からなくなる。


---


 ただ――


---


 落ちていく。


---


 そのまま、


---


 どこかへ。

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