23話:敵補給部隊を見つけよう
林を進めば徐々に森となる。
帝国との国境地帯に近い地域は人の手がまだあまり入っておらずうっそうとした森が広がる。
今現在帝国と王国の軍がにらみ合っている地域のほうがこの辺りでは珍しいのだ。
互いに見渡せるような丘に布陣しているがゆえに増援が来ない限りは互いに攻めきれない。
そして、そんな森の中に帝国へ続く街道がある。
私とルーナはその街道周辺の地形を確認したのち、街道を視認できる位置で今夜を過ごすことにした。
「火は焚けませんから、持ってきた食料でサンドイッチを作りましょう」
「あとは道中で採取したベリーが夕飯ね…」
まだ日が落ちる前に食事をとってしまう。
完全に日が落ちたら何も見えなくなる。
森の中では月明かりも限度があるので。
「ミリア様、明日までここで待ってみましょうか」
「敵軍に動きでもあるかしら?」
「いえ、アルミナ王国ですら毎日食料の輸送があります。帝国だって同じはずです」
「そっか、補給が無いと軍は維持できないと」
「初戦で帝国軍が撤退していないことから考えても潤沢な物資と人員を輸送していると考えるべきです」
なるほど、たしかに王国側と同じだけの戦力を即補充できたから戦線が膠着しているわけで、ということは補給はしっかりしていると考えるべきなのね。
王国側だってこれ以上の人員は割けないわけだからこその膠着状態だし…
「そういえば、眠るわけにはいかないわよね…」
「交代で寝ましょう。先にミリア様が寝てよいですよ」
なるほど、そうすればいいのか。
「じゃあお言葉に甘えて」
今日一日歩き通しだったから流石に疲れたのよね…運動音痴だとしてもそれなりに体力には自信があったけれど私はあっという間に夢の中に入ってしまった。
*****
ぺちぺちと顔を叩かれて目が覚める。
「お嬢様交代です」
「ん、わかった」
ごそごそと体を起こして衣服を整えてから再度ギリースーツを着こむ。
「どれぐらいたったの?」
「おおよそ5時間ぐらいでしょうか…ミリア様は日の出までお願いします」
「了解よ」
私は毛布にくるまって横になっていたんだけど、ルーナは座ったまま毛布をかぶる形で眠りに入った。
その姿勢で寝られるんだ…すごいわね。
月明かりで辛うじて見える街道のほうを確認しても人の気配はない。
というか夜にわざわざ移動する奴なんて碌なもんじゃない。
馬だって眠る。
夜は基本的に誰も活動しないはずだ。
こうして寝ずの番をするのもどちらかと言えば野生動物に襲われないためだ。
私達は火が焚けないからこうして見張るしかない。
しかしやることもなく待ってるのって辛いわね…素数でも数えようかしら。
ただただぼーっと景色を眺めながら、たまにベリーを噛んで眠気を覚ましたりして待つこと数時間。
夜が明け初め空が明るくなってくる。
「ミリア様」
「起きたのねルーナ」
「馬車の音です。帝国側から来ていると思われます」
ルーナが起きたのは日が昇ったからだけではないらしい。
地面に耳をつけたルーナは双眼鏡を取り出す。
「2キロ以上先に敵の補給部隊がいます」
「将校は居そう?」
「護衛の部隊長が確認できます」
「もう少し近づいたら狙えるかしら?」
「大丈夫だと思いますよ。このあたりの地形は事前に確認済みですし」
昨日のうちにこのあたりの地形はある程度把握していた。
だからここに布陣したわけだし。
「ルーナ、1発撃ったらこちらに気が付くわよね?」
「その可能性はありますね…普通の銃とちがって音がしませんから、どこから撃ったかなんてわからないとは思いますけれど…」
「いっそ後方から撃たない?輸送されている物資の大まかな量だって情報だと思うわ」
「賛成です」
ルーナの賛成を得られたので敵補給部隊が通り過ぎるのを待つ。
部隊全体が通り過ぎた時、それが帝国軍補給部隊を率いる将校の最期よ。




