17話:試射と初戦果
翌朝、私とルーナは服装を整えて司令部の天幕までやってきた。
「ミリア・タリムです。お約束通り試射を見ていただきたくお伺いいたしました」
入り口にいる兵士にそう告げると、中から昨日の三人がでてきた。
「朝早くご苦労。では射撃場へ行こうか」
ベアロン伯爵が宿舎の横にある射撃場を指差す。
だが私は首を横に振る。
「射撃場では真の実力は測れません。私は実際に敵将校への射撃をご覧に入れようと思います」
「なにぃ?」
間髪入れずにロベルト子爵が威圧的に口を開く。
まぁ突っかかってくるよね。
それに、この銃そのものに興味を持っているみたいだから仮に私が射撃場で真ん中に必中を出しても自分の部下で一番射撃の上手い人に同じ銃で射撃させれば当てられるとか難癖つけるはずだ。
というのも射撃場の的の距離は100mほどしかない。
ルーナに昨日確認してもらった。
だからこそルーナは敵将校への実戦的な狙撃を提案してくれたんだ。
「タリム嬢、君の実力を疑うわけではないが…そんなことが可能なのかね?」
ベアロン様が心配そうに声をかけてくれる。
でも大丈夫。私ならできる。
「お任せください。今朝日が昇り始める頃より偵察をいたしましたが、敵陣地はここから1000m程度の距離、外に出ている敵将校がいれば問題なく撃ち倒せます」
「ふん、そんなでかい口を叩くんなら実際に見せてもらおう」
「仰せのままに」
ロベルト子爵からの明らかな挑発をしっかり受け止めてあげる。
「では前線まで向かいますがよろしいでしょうか?」
三人は承諾してくれて馬に跨った。
私は徒歩だけど。
*****
私たちが前線まで行くと他の兵士たちも興味ありというような顔で見てくる。
特に私を。
変わった格好の幼女がいるとかひそひそ聞こえる。
背は小さいが私はもう14歳だぞ!来年には成人するレディーに幼女とかいうな!(学校でもたまに言われていた)
「ミリア様、距離1,200に敵将校がいます」
ルーナが双眼鏡を使って確認した将校を指さす。
私もスコープでその方向を覗いてみれば、ブレストプレートをつけて派手な羽飾りのついた兜をかぶっている馬に乗る男が見えた。
「見えるわ、あの羽飾りの将校ね」
見えるのは部隊を鼓舞しているような動きをする将校が1人。
なんか演説でもしてる?
スコープから目を外せば肉眼でも確認することができる。
馬に乗ってると目立つわねやっぱり。
「ベアロン様、正面の馬に乗る帝国軍の将校がお見えになりますか?」
「…あの羽飾りの者か」
「はい、アレを射撃します」
ごくりと誰かが唾を飲み込んだ。
きっと周りにいる一般兵の人たちね。
あんな距離、普通は当たらないから何を言ってるんだって顔の人もいる。
一番その顔してるのはロベルト子爵だけど
私は立ひざになって今一度ライフルを構える。
スコープを覗けばその将校の顔が分かるほどだ。
不細工だなぁあの将校。
「ルーナお願い」
ルーナが双眼鏡を構えて風速計を取り出す。
「距離1150m、風速5、風向11時」
「向かい風だけど絶好のコンディションね…撃ちます」
近くにいる人たちだけに聞こえるように私は声をかける。
点を僅かに敵将校の顔の左側にずらし、引き金を引く。
パスッ
「…ぎゃ!」
「うわぁなんだ!?」
「どうしたんだ!!!」
羽飾りをつけた帝国将校が落馬し、敵陣地の一部が騒がしくなる。
「これが、私とルーナの実力です。いかがでしたでしょうか?」
起き上がりにっこりと司令官達に私は微笑む。
皆が目を見開いたまま固まっていた。
「いつまでもここにいると敵も流石に気がつくかと、すぐに司令部天幕までもどりませんか?」
私と同じことができるやつが敵にいたらあんた達も危ないのよと匂わせて言えば、三人は気を取り直したのか天幕へ戻ることを決めてくれた。
私たちはその後を追う。
うまく行った…でも撃った後のほうが、私の手は震えていた。




