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第6章13話

第6章13話


 思わぬ事態で人材調達が出来てホッとしているとタマ三郎さんが来た。


「侍の宿舎が少しばかり……」


 嫌な予感を持ちながら見に行くと酷い物だった。


「長屋!」


 今回雇い入れた侍達は若手なのでボロボロの長屋住まいだった。


「奥の一軒家は空いているの?」


「お役御免になった連中が使っていたのですが、やはりボロボロです」


 本当に幽霊屋が並んでいるみたいだった。


「河瀬の家の家臣がこんな家に住むのは問題ですな」


 タマ左右衛門さんも嫌な顔をしている。

 知世さんと善姫さんを呼んで手伝って貰う事にする。


「「旦那様。お呼びで」」


 宣姫さんと依能さん、ブリュネちゃんと林弧ちゃんも現れた。


 今日の経過を説明すると、全員で茫然と家を見ている。


「と言う訳で家を再生してみるから。長屋は潰して新築にするので放棄ね」


「「「「「「はーい」」」」」」


 手近な家を再生してみる。相当なボロ家だ。


『これ住んでいた人が可哀相だね』


『何故修理をしなかったのだろう?』


『不思議だね』


 水美と無駄話をしながら再生してゆく。

 最初は全体的に再生すると、見た目には良い家になった。見物している奥さん達が驚いている。


『戸が渋いな』


 玄関の戸を再生し直すとスムーズに動くようになった。通常、全体的な再生で全て良くなるのに個々に手直しが必要だ。

 隣の家を直している善姫さんも苦戦している。


『全部の手直しが必要みたい』


 水美も見える物、全てを再生し始めた。障子もボロボロだし、動きが悪い。仕方無いので片端から再生してゆく。

 5LDKくらいの家だが手間がかかる。


『一応風呂は有るようだな』


『作らなくて済むのは有り難いよ』


 家が何とかなって来たので庭を綺麗にして、草を排除した。


『垣根と門を直したら見れるようになったな』


 一軒を直すのに1時間くらい掛かってしまった。全員相当苦労している。俺は水美とやっていたので早く終わったようだった。

 善姫さんと知世さんのを手伝ってから、次の家に取り掛かった。


「善姫さんと知世さんは2人でやりなよ。大変過ぎる」


 2軒目からは皆、組んで始めたようだ。


 全部終わるのに3時間くらい掛かってしまった。


「蓑田さん、全員に家を割り振って貰えませんか。引っ越して貰います」


 侍の皆さんの大移動が始まった。切り売りしていたようで家具も少ない。

 俺は依能さん達と蓑田さんの家の再生を始めた。代官だけあって家が大きい。


「奥さん。不具合が有ったら言って下さい」


 娘さんが色々と指摘してくれるので、仕事がはかどっている。奥さんは遠慮がちで役に立たない。

 衣装箪笥が有ったので再生してあげる。


「中の着物もやりますよ」


 全部再生してあげて、とても喜ばれた。但し着物は数枚しか無かった。


「旦那様。奥さん達が殆ど着物を持ってないです」


 知世さんと善姫さんが報告して来た。


「売ってしまったのだろうね」


「可哀相です……」


 仕方無いな。呉服屋に行く事にした。


「これは御屋形様。本日は?」


 事情を説明して、古着を持って代官所の詰め所に行って貰う事にした。


「お侍様の奥様方ですね」


「そう、彼女達に合う程度の古着で良いよ。数を持たせた方が良さそうだから」


「そうですね。相当切り売りしていたようですし」


「笹美の国の侍は大変だった事を今日知ったよ」


「彼らの困窮は評判でした。御屋形様に雇われて幸せだと思いますよ」


 呉服屋の主人は番頭に指示して古着を選び始めている。


「1人5着くらい考えているから。帯なんかもね」


「賜りました」


 俺は戻って蓑田さんに、奥様方を詰め所に行かせて着物を選ぶように伝えた。


「何から何まで……」


「1人5着くらいで帯も3本くらいは必要でしょう」


 話しを聞いて、知世さんと善姫さんが喜んでいる。河瀬の家に仕官しなかった侍の嫁さん達が羨ましそうだった。


 再生作業で汚れてしまった。


「さあ、屋敷に帰って風呂に入ったら寿司屋に行くぞ」


 全員で万歳している。この人達の寿司好きは筋金入りだと思った。


「タマ左右衛門さん、申し訳無いけど後は任せます」


 優秀な人達に後を任せて屋敷に帰った。知世さんと善姫さんも3階の風呂に来て洗ってくれた。


「兄が馬鹿だと家臣の人達が酷い目に会うのですね」


「侍達の3分の1が、お役御免になったようだよ」


「そんなにですか! 国の運営が出来なくなりませんですか?」


 知世さんが驚いている。


「雇い過ぎだったのだと思うよ。水郷境が自治独立したので、待ってましたと首を切ったのだと思う」


「それにしても3分の1は凄い人数です」


「だからヤマコの里は笹美の国の浪人で溢れているのさ。でも山賊ではね……」


「嫌われてましたよね」


「旦那様が頑張って、父や分家のような間違いを正してくれたから河瀬の家は安泰になったと思ってます」


 知世さんが、しみじみと言っていた。知世さんのお父さんは被害者なのだが、分家の暴走を止められなかった事実が知世さんの負担なのだろう。


「知世さんの父上は、私の父や兄に比べれば、聖人みたいな方ですよ」


 話しが暗くなって来た。俺にしてみれば、一連のドタバタのお陰で知世さんと善姫さんを嫁に出来て大歓迎だったのだが、言う訳にもいかない。


「さて、風呂から上がって寿司屋に行きましょー」


 知世さんと善姫さんがワンピース型の服を着ている。知世さんがワンピース型の服で外出は、結構疲れているのだろう。

 今日の出来事は知世さんの精神に結構負担になったみたいだった。

 善姫さんが俺を見て訴えているので、知世さんに妖力を与えてあげると体力ごとゴッソリ持って行かれた。

 知世さんだけだと何か変なので善姫さんにも足してあげると俺が怪しくなってしまった。

 水美が慌てて俺に足してくれている。


 知世さんが回復して元気を取り戻したので3人で寿司屋に飛んだ。


 寿司屋に着くと既に水神様と天狗さんが来ていた。


「哲司殿は今日、大活躍だったと聞いているぞ」


「でも、お陰様で警備体制が少し良くなりましたよ」


「懐具合が良くなり、早速若手侍が水郷境の料理屋で飲み始めているようだ」


「今まで我慢していたのですから良かったですよ。そう言えば水郷境で飲み食いしないので、どんな店が有るかも知らないな」


「哲司が喜ぶような店は無い」


 天狗さんの話しを聞いてガッカリした。


「哲司殿が雇わねば、明日食べる物も無かったらしい。良くやったと思うぞ」


 水神様に誉められてしまった。


「警備体制は、もっと水郷城と連帯しないといけないのですが」


「あの狼族とか。難しいと思うぞ。あいつ等は本当に弱くて気ぐらいばかり高いからな」


 天狗さんが諦めたように話している。


「ですよね……水神様、何とか説得して下さいよ」


「彼等には私も困っているのだ」


 話しをするだけ無駄なようだ。


 今日は何故か全員盛り上がっている。林弧ちゃんは日の丸扇子を両手に持って踊っているくらいだ。


「貸し切り状態ですから好きにやって下さい」


 オヤジが諦めたように言っていた。



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