第6章12話
第6章12話
もう少しで年末というのに面倒な話しが続くものだ。
「水郷境の執務室に来ていただけませんか」
タマ左右衛門さんが呼んでいる。
「良いですよ。何か?」
「代官の蓑田殿と謁見願えれば、有り難いのですが」
ずいぶんと久し振りな名前だった。水郷境の屋敷の1階に在る執務室に行くと代官の蓑田さんが来ていた。
「御屋形様。お久し振りで御座います」
「本当に久し振りですね」
「今日は離任の御挨拶と、お願いが有りまして……」
「離任なさるのですね」
「はい。水郷境と水郷城は独立して自治権を得た事で、我々の仕事は終わりました。12月末日をもって、私も役人達も離任致します」
「ご苦労様でした。これからは笹美城でお勤めですか?」
「いえ……全員お役御免となりました」
「全員解雇ですか!」
「はい。笹美の国の侍の3分の1がお役御免となっております」
「そこでお願いですが、御屋形様からお借りしている現在の我々の家に、もう一月住まわせていただけませんでしょうか?」
「構わないですよ」
「有り難う御座います」
「全員いきなりの、お役御免でしたので次の仕事も住処も見つからす路頭に迷う寸前でした」
でも、このままだと路頭に迷う日を1ヶ月伸ばしただけに思える。
「異世界に笹美の国の浪人が家族連れで沢山居ましたが、そんなに大量に解雇したのですか」
「はい。突然の事で皆驚きました。ところで、その異世界の浪人達の生活はどんなもので」
「村の乗っ取りは失敗して山賊が多かったですよ。笹美城の侍は嫌われ者ですから」
「……そうですか」
蓑田さんがガックリ肩を落としている。冷たい言い方だったけど隠していると後で、より大変になる。
「最後のお給金は?」
「そんな物は有りません」
「……そうでしたか」
俺もなんとなく言葉に詰まってしまった。
「代官所は50人くらいでしたっけ?」
「いえ、今は私を含めて22人で御座います」
「随分減ってしまいましたね」
「分家の方と組んでいた者達を25名くらい、お役御免にしました。先日代官所の金子を持ち逃げした者が3名おりまして、残った者は若い者ばかりで」
「真面目な方が残った訳ですね」
「はい、優秀な若手ばかりですが仕官する先は……」
「ここに配属ですから6感持ちですよね」
「はい、程度の差は有りますが」
『タマ左右衛門さん、警備の人材の雇い入れは上手く行っているの?』
『やっと6人ですよ』
『給金、月にいくら?』
『1人3金貨くらいですよ。笹美の国より高い給金です』
そんなものなんだ。我が家の無駄遣いを少し反省した。
「蓑田さん、全員と会えます?」
「はい。今は代官所の詰め所におります。御屋形様から家の利用延長許可の可否を待ってますので」
我々が代官所の詰め所に行くと、侍達が仕事をするでも無く座っている。
蓑田さんと俺を見ると全員が平伏した。
「面を上げて聞かれよ。御屋形様は我々に家の利用延長を承諾して下さった」
皆さん、ホットしたような嬉しそうだった。良く見ると全員30歳以下に見える。確かに水郷境の門などで見た顔だった。
「蓑田さん、皆さん身の振り方は決まっているか、あては有るのですか?」
「この中で次の仕官なり、あての有る者はおるのか?」
3人以外は全員決まって無いどころか途方に暮れていた状況らしい。
「この方々の給金は失礼ながらどの位です?」
「侍の地位で決まりますが、この者達は月に2金貨が殆どで見習いの3人が1金貨ですか」
1金貨の若者と言っても、どう見ても俺より年上に見える。
『タマ左右衛門さん、うちは見習い幾らです?』
『2金貨くらいですね』
「見習いの方々は、どの位の間見習い侍をしているのです?」
「5~6年はやってますかね。上げてあげたいのですが、財政難で上げられないのですよ」
蓑田さんが寂しそうに教えてくれた。
「皆さん。私は河瀬哲司と申します」
また皆さん、いきなり平伏してしまった。
「あのー、面を上げて下さい」
正座状態に戻ってくれた。
「皆さんが宜しければ、希望者は河瀬の家で侍をやって貰う事が出来ます」
全員がざわついている。蓑田さんも信じられないと言った顔付きだった。
「但し条件が有ります。水郷境と水郷城は完全自治となり、これからは笹美の国とも争う可能性が有ります。その時に水郷境の侍として働いて貰わねばなりません。覚悟は有りますか?」
皆さん互いに顔を見合っている。中でも1番頭の良さそうな若手侍が応えた。
「侍は御屋形様に死ねと言われれば、死ぬもので御座います」
周りの侍達も同意の声を上げている。
「では、全員の同意を頂いたものと考えます。待遇は河瀬の侍達と同条件となりますので。若手の方々は月に3金貨。準備金に5金貨です」
侍達から歓声が上がった。
「見習いの方々も今日をもって普通の侍となります。蓑田さんはタマ左右衛門さんと話し合って決めて下さい。笹美城の給金遅滞が有ったようですので、この場で手続きを進め終わった者から支給させていただきます」
タマ左右衛門さんと蓑田さんが話し合っている。
『蓑田様は守備奉行という事で月10金貨、準備金に15金貨となりますが、如何でしょう?』
『タマ左右衛門の思った通りにして下さい。本日かかるお金は全て俺が払います。来月の給金から予算を立てて下さい』
タマ左右衛門さんがブツブツ文句を言っていたが、最後に折れて払わせて貰える事になった。
タマ次郎さんとタマ三郎さんが係の侍を連れて来て、どんどん手続きを進めている。
「悪いけど全部銀貨だから」
タマ次郎さんとタマ三郎さんが、銀貨を一生懸命数えている。
『哲司、減りそうか? もう1袋持って来るぞ』
『水美、意地悪言うなよ。まだ、最初の袋が半分無くなってないのに』
手続きと支払いがどんどん進んで、終わりかけた時に俺はふと気が付いた。
「皆さんの中で借財の有る方は言って下さい。俺が清算してしまいますので」
4人出て来た。借金を材料に誰かに何か唆されるを面倒だ。
「借用書が有ります?」
全員が頷いている。
「取って来て下さい。本日で終わらせます」
取って来た借用書はみな5~7金貨を大晦日までに支払うものだった。支払えない場合は奥さんを働きに出す事になっている。貸し手は両替屋だった。
気が付いて良かった。後5日だった。
「蓑田さんとタマ三郎さんで付いて行ってあげて下さい。この財布で」
6人が飛んで行った。
「皆さんに河瀬の紋付きを支給します。そちらで受け取って下さい」
タマ次郎さんが紋付きを配っている。皆さん神妙な顔付きで両手で受け取っていた。
『今晩、あの両替屋をやるぞ』
水美に狙われたら終わりだ。根こそぎ持って来る気だ。確かに、この両替屋は前回襲ってない。
借金を済ませた人達が帰って来た。財布を返して貰ったが、余り減ってなかった。




