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第6章11話

第6章11話


 風の精霊さんの治療が終わったのは、前回から1週間経ってからだった。


 今日は皆で寿司屋を借り切って風の精霊さんのお祝いをする事にした。

 少し早めに俺と知世さんと善姫さんの3人で寿司屋に行くと既に始まっていた。

 風の精霊さんは実体化したままだし、水神様と宣姫さんが当たり前のような顔をして陣取っている。

 一眼姫とピョコリ瓢箪が呼んでいる場所に座ってビールを手にすると全員で、また乾杯をしてくれた。


「御屋形様。林弧も光の精霊の治療に行っても良いですか?」


「林弧ちゃんも? 良いけど見て気持ち良いものでは無いよ」


 結局、俺は御屋形様で呼ばれ、林弧さんは林弧ちゃんで呼ばせて貰う事になってしまった。何せ、とても可愛いので林弧ちゃんの方が似合うのだ。


「依能さんと風の精霊さんにした事を考えると、林弧もしっかりお手伝いしたくなりました」


「サピカ村の家の1階は好きに使って良いよ。2階は、我が家の専用だけど」


「嬉しいです!」


 林弧ちゃんは時間を4倍に使える所が気に入ったようだ。嬉しそうにしている笑顔がとてもカワイイ。


「依能さんとブリュネちゃんも、あの家を使ってますのでサピカ村も賑やかになってますよね」


 善姫さんが嬉しそうに話している。


「誰かが使っている方が安全だしね」


 最初は俺と善姫さんしか使わなかった家だが。依能さんとブリュネちゃんが、休み時間や夜に相当使っているようだ。

 大きな家にしておいて良かった。


『ねえ、水美。風の精霊さんは堂々と実体化しているけど、問題にならないの』


『本人と天狗が納得しているのなら問題無いこと思うぞ』


『そうなんだ』


『妾も実体化するか?』


『嫌だよ』


 水美が笑っていた。


「哲司殿、何故光の精霊はそんな馬鹿な事を始めたのだ」


「聞いたところに依ると、光の精霊は木の精霊と豊饒の精霊の精霊だった依能さんを落とし入れて、子飼いの精霊を木の精霊にしたらしいのですよ。

 その木の精霊はドジを踏んで外されたらしいのですが、今の木の精霊も光の精霊の側らしくて……裏に神が付いていると言う噂も有りますね」


「何の神だ」


「私は豊饒の神と見てます」


 俺は確信が無いので隠していたのに、依能さんがアッサリと答えてしまった。


「光の精霊は私より実力に劣るので被害妄想を起こし、今度は私を狙ったようです。私は精霊の管理役などに興味が無いのですが」


 風の精霊さんが説明した。


「だから哲司殿は林弧を助けて水郷城に入れたのか」


「だって依能さんと林弧ちゃんが居たら、豊饒の神は水郷城に何も出来なくなるじゃないですか」


「確かにそうだな」


 俺の応えに機嫌良く水神様が納得している。


「豊饒の神は林弧を見捨てましたしね。良い印象は無いですよ」


 依能さんが怒っていると、林弧ちゃんは両手でビールを持って2本の尻尾をプラプラさせている。



「光の精霊はどうするのだ?」


「精霊界で彼女を助けると言う者は1人も居ないのですよ。それだけ酷い裏切りでしたから。

 最低でも後300年くらいは皆で丁重に治療して体調管理をしながら、今の生活を楽しんで貰う事になってます」


 水神様の質問に依能さんが答え、風の精霊さんも頷いている。

 精霊の恨みというか女性の恨みは怖いのであります。


 その後は和やかな雰囲気に戻って、何時もの寿司屋での飲み会になって行って終わった。




 朝食後、タマ左右衛門さんが屋敷の執務室にドタバタと走って来た。


「御屋形様。大変です」


「何か起きました?」


「倉庫から花火が出て来ました!」


「古いの?」


「どうやら5年くらい前に花火大会が計画されていたらしいのです。それが御屋形様が開拓地に行ってしまい。分家が打ち上げの予算を使ってしまい、そのまま放置されていたようで」


「何発くらい有る?」


「書類上では40000発くらいです」


「凄い数だな‥…自然発火でもしたら大変だよ」


「今花火師に見て貰おうと、呼びに行ってます」


 暫くして花火師が来て倉庫に入って行った。


「何だって、こんな水郷城に近い倉庫にしまって有ったんだ?」


「何処かに横流しする予定だったと思います。ですが分家と当時の宰相が競って予算を盗んだ為に妖術師を雇えなくなり、運べないまま空いていた倉庫に積み上げて封印されていたようでです」


 花火師が戻って来て報告を始めた。


「御屋形様。危なくて触れませんぜ」


「そんなに酷いの?」


「花火玉の回りに張ってある紙が剥がれているのも在るし、積んだ内側の箱は湿気で中の火薬が流れ出ていると思いますぜ」


 最悪の状態だった。廃棄に運び出す訳にもいかない。

 噂を聞いて、依能さん、ブリュネちゃん、林弧ちゃんが見に来た。

 説明していると宣姫さん、知世さん、善姫さんが現れた。


「御屋形様。全部再生しちゃいましょう」


 林弧ちゃんが言い出した。


「そうですよ。上手く行ったのは大晦日にでも打ち上げてしまえば良いですよ」


 ブリュネちゃんまで、やる気になっている。


「廃棄に移動じゃなくて打ち上げるの?」


 ブリュネちゃんと林弧ちゃんが首を縦に振っている。


「花火師さんが出来ないなら、妖術師がこれだけ居るんだから私達で上げれます」


 林弧ちゃんが強硬だった。


「とにかく、皆で再生してみようよ。上手く行ったのは除けて、花火師さんに調べて貰おう」


 全員で手を繋ぎ倉庫の端から再生して、箱ごと新品にしてゆく。皆で移動を使って3列くらいまで出すと、また中古みたいな箱が見えて来た。


「取り囲んで出来ないから効率悪いですよね」


 依能さんがブツブツ言っている。風の精霊さんで経験を積んだので、力を合わせて術を掛けるのが慣れて来ている。


「御屋形様。林弧に実験させて下さい!」


 返事をする前に3列目の一番下に有った箱を開けて、花火を取り出している。

 林弧ちゃんは直径5~60センチの花火を空中に浮かべて外に出た。


「林弧、行きます!」


 妖力で花火を空中高く上げて、小型の火球を撃った。

 水郷城の空に昼間なのに美しい花火が開いた。


「ドドドーン」


 花火の音が少し遅れて聞こえて来た。


「面白そう。私も」


 ブリュネちゃんが妖力打ち上げをやってみている。大輪の花火が水郷城の空を飾る。

 依能さんや家の奥様達までドッカンドッカン始めた。


『仕事になってないね』


『良いではないか。皆、楽しそうだ』


 水美までドサクサに紛れて打ち上げている。遂に水神様が城から出て来た。


「昼間から何をやっている?」


「年越し花火大会の準備ですよ」


 タマ左右衛門が経過を説明すると、水神様まで数発打ち上げて遊んでいる。


「終わらないし、危険だからどんどん再生していくよ」


 合間に実験なのか遊びなのか判らない打ち上げをやったり、昼食を食べに行ったり晩御飯で飲んだりしていたので、再生が終わったのは次の日だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 古い爆薬が放置されて中身がこぼれて・・・。 ウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』を思い出しますね。 短縮版(ハッピーエンド?版)を昔『日曜洋画劇場』で見ましたが、全長版(アンハッピー…
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