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第6章09話

第6章09話


 水郷境の門番が行き倒れの狐族を保護して、タマ五郎さんに伝えて来た。


「で俺に何の用事?」


「狐族に見えるけど違うみたいなので……」


 タマ五郎さんも自信無さげだ。仕方無いので行ってみる。


「これ狐族じゃなく薄汚れた、お狐様じゃない?」


 顔付きはとても可愛い女の娘で13~4歳の、お狐様と思われる。ボロボロの神官服を着た狐色の狐がうつ伏せにバッタリ倒れて、少し薄く見えている。


「そうなんですか?」


「尻尾が二本生えているだろう」


 この世界でお狐様を見るのは初めてのような気がする。


「とりあえず屋敷に運ぶよ」


 屋敷に運ぶと依能さんと一眼姫が寄って来た。


「おい、林弧りんこ


 一眼姫が知っている


「林弧。生きていたか」


 依能さんが、つま先で突っついている。


「依能さん駄目だよ、一応神様の使いなんだから」


「良いのだ」


「構わないです」


 一眼姫と依能さんが冷たい。


「汚れ過ぎだから知世さんと善姫さんで風呂に入れてあげて」


「「はーい」」


 ヤヤさんには食べる物を用意して貰う


「あの、お狐様は知り合いなの」


 依能さんに聞いてみた。


「あの狐は迷い人みたいな者で、他の世界から飛ばされて来たのですよ。豊饒の神様が引き受ければ良かったのですが無視したので私が使っていたのです。

 私が光の精霊にハメられてからはどうなったのか……」


「放浪しておった。こっちでは狐様信仰が無いので妖怪扱いじゃ。儂も良く食べ物を分けてやっていたのだが」


 一眼姫が250年分を簡単に説明してくれた。


「尻尾が別れているから偉い狐様なのに苛酷な境遇だね」


「ドジでな」


「そうなんですよ」


「妖力は強いの?」


「強いのですが、すぐヘタレます」


「自分の世界に帰れなかったのも、妖力不足が原因だったな」


 一眼姫が思い出すように話している。困った狐様だ。


 財布を探ってみると妖力回復と妖力増加の数珠が何本か有った。一本ずつ取り出してブリュネちゃんに渡す。


「これまとめて、あの緑色の石も足して首に巻けるものが作れない?」


「簡単ですよ。狐さん用ですね。メダルにして無くさないようにしますね」


 ブリュネちゃんが早速取り掛かっている。


「ちゃんと経費は俺に請求してね」


「余っている材料で出来ますから。それに先日、狼を沢山いただきましたし」


 そう言えばあれ以来、依能さんと2人で妖獣退治のバイトをしているらしい。


 知世さんと善姫さんが狐様を連れて来た。浴衣を折り曲げて大きさを調整してある。


「この狐さんに合う着物が無いので」


 善姫さんが笑っている。

 狐様は身長140センチくらいしかなかった。洗ったらとても綺麗な狐色だった。


「何も言わなくても良いから、まず食べなさい」


 俺に言われてヤヤさんの親子丼をガツガツ食べ始めた。

 2杯めで透き通りが無くなって来た。3杯食べて話す元気が出て来たようだった。


 狐様が土下座して話し始めた。


「大変お世話になりました。私は林弧と申します。だんだん山に誰も居なくなって、水郷境まで行くと依能様と一眼姫が居ると聞き門まではたどり着いたのですが……」


「歩いて来たの?」


「はい。ここで住む場所が頂けると聞きまして。まさか御屋形様にご迷惑を掛けるとは」


「お狐様なんでしょう?」


「ここでは天界を追われてますし、日本に帰っても祠すら残って無いと思います。300年くらい前ですから」


「ここにしばらく居ると良いよ。依能さんも住んでいるから気が楽だろうし。土下座は止めよう。それと俺は哲司、御屋形様は止めようね」


 尻尾が別れているので1000歳くらいかもしれないのにタメ口で良いのだろうか。


「知世さんと善姫さんで呉服屋に付いて行って、間に合わせの古着を三着くらい買って、新しい着物を三着くらい注文してあげて。草履とか外套なんかも忘れ無いでね」


「「はーい」」


 知世さんと善姫さんに銀貨袋を渡して任せる。

 依能さんと一眼姫にピョコリ瓢箪も一緒に飛んで行った。


「ブリュネちゃん。それ終わったら、大福でも食べに行く?」


「行きます!」


『ブリュネは着物が欲しく無いのか?』


 水美が聞いて来た。


「ブリュネちゃんは着物を着る?」


「欲しいですけど、もう少し貯金してからと思いまして」


「買ってあげるよ。これから行こう」


 凄い喜び方だった。仕事も金色のメダルに金色の鎖を付けて終わるところだった。


「金色ですけどけど、金ではありません。呪い除けの効果が有ります」


 俺はそれを懐にしまってブリュネちゃんと呉服屋に飛んだ。


「ブリュネちゃんにも見立ててあげて。とりあえず三着くらいずつ」


 俺は相変わらず水美と田楽とビールを楽しんで待つことにした。


『水神の所に連れて行くのか?』


『妖力を増やしてもらえれば嬉しいし、ついでに水神様の使いにでもと思ってね。お狐様は依能さんの助手にでもするよ』


『それが良いな。豊饒の精霊と使いが揃う。水郷境は大発展するぞ』


 そうなってくれると嬉しいのだが。


 グダグダ話しているうちにブリュネちゃんと林弧さんが出て来た。2人供和服姿で出て来た。2人供なかなか可愛い。


「草履は?」


「わざわざ呉服屋に持って来てくれました」


 善姫さんが教えてくれた。


「沢山買っているから親切だね」


 知世さんが銀貨袋を返して来た。余り減って無い。


「さて、林弧さん水神様の所に行くよ。依能さんも一緒に来て。知世さん達は寿司屋で待っていて」


 全員で万歳している。


『依能さん林弧さんを助手に欲しい?』


『出来れば欲しいです。来年は豊作に出来ますよ』


 水神様の閲覧の間に着くと水神様が座って待っていた。


「豊饒の神が来ていたのだ。小狡い女でな」


「何か不愉快な事でも?」


「事有る事にゴチャゴチャうるさいのだ。哲司殿が気にする事は無い。ところで、その床に張り付いているのは何だ」


 林弧さんがひれ伏して床に張り付いている。


「この娘は林弧さんと言います。日本の豊饒の神の使いとでも言うか、日本では何処でも祠の有る有名な存在で《お狐様》と呼ばれているのですが……何かドジをしてこちらに飛ばされて来たらしいのです」


 依能さんが掻い摘まんで林弧さんがこちらに飛ばされて来てからの事を説明してくれた。


「なる程な、林弧も大変な目にあったな」


「林弧さんは水郷境で依能さんの助手をやって貰おうと思っています。本人が拒否しない限りはですけど」


「林弧はやる気は有るのか?」


 水神様が聞いている。


「御屋形様のお情けを断る理由など有りませぬ。林弧は死ぬ気で働かせていただきます!」


「決まったようだな」


「それで水神様にお願いなのですが、林弧さんを水神様の使いにして貰えませんか? そうすると《お狐様の祠》を水郷境神社の境内に置けるもので。

 ついでに水神様は配下に豊饒の精霊と豊饒の使いを持つことになります。豊饒の神は水郷境と水郷城には要らない存在に近くなってしまうという考え方も出来ますが……」


 水神様の反応は早かった。


「良いな! それで行くぞ! どれ林弧よ面を上げよ」


 林弧さんが恐る恐る顔を上げた。


「なかなか可愛いな。妖術はなかなかのものだが妖力が足らんな足してやろう。妖術も必要そうな物は与えておこう。哲司殿の下で働くなら水の攻撃系は全て必要だな」


 水神様の大盤振る舞いだった。


「林弧よこれから、頼むぞ」


「ははっ!」


 林弧さんがまた、ひれ伏してしまった。



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