↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大地震と津波で街は崩壊した。無傷の防災ビルに逃げ込んだら、人間性のテストが始まった。  作者: makubes


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/15

第12話「幕の内弁当」

◇役員


 長机も、椅子も、さっきの会議室のものだった。

 手のつけられていない湯呑みが、押しやった位置のまま残っている。


 立ち上がろうとして、腰が浮かない。

 手首と足首が、白い結束バンドで椅子に留められていた。


 右に若いほう、左に護衛。

 二人とも縛られて、まだ目を閉じている。

 壁際には小さなドローンがいくつも浮かび、黒いレンズをこちらへ向けていた。

 正面には、大型ドローンが一台。


「ほどけ。誰の指図だ。久世を呼べ」


 大型ドローンは答えない。

 その声で、若いほうが目を開け、自分の手首と年配を見比べた。

 護衛は目を開けると、手首を一度だけ引いて、動きを止める。


 扉が開き、揃いの制服のホテルマンが二人入ってきた。

 三人の前に弁当箱と箸、紙とペンを置いていく。

 鋏で手首のバンドだけを切ると、頭を下げて出ていった。


 大型ドローンが、三人の前へ進み出る。


「ほかのお二人が、どの順番で食べるかを予想して、

お書きください」

「残すと思うものは、最後に回すか、食べないかも、

書き添えてください」


 蓋を開けると、幕の内弁当だった。

 焼き鮭、海老の天ぷら、出汁巻き、唐揚げ、煮しめ。

 隅に、ミニトマトと柴漬け、はじかみ。

 仕切りには大葉が敷いてある。


 右で、ペンの走る音がした。

 若いほうは年配の弁当に一度目をやり、迷わずに書き進めていく。

 左の護衛も、手を止めない。


 年配の手は、若いほうの欄で止まった。

 何度も一緒に食事をしているはずだ。

 何から箸をつけていたか、出てこない。


 唐揚げ、と書いた。

 護衛の欄にも、同じ順番を書き写す。

 ペンを置き、壁際のレンズを睨みつけた。


◇久世


 壁の画面いっぱいに、年配の顔が映っていた。

 レンズを、まっすぐ睨んでいる。

 人型のガードロボの後ろへ、一歩下がった。

 画面越しに、目が合った。


 隣の会議室とは、壁一枚しか隔たっていない。

 机の上には、湯呑みを六つ並べてある。

 急須の茶は、皆が来る前に淹れておいた。

 椅子を、人型の真後ろまで引いて座った。


 笹川は椅子を引き寄せ、とうに一つ目の湯呑みを空けている。

 菱沼は犬型のそばにしゃがみ、前足の関節を指でなぞっていた。


「参考人の皆さんを、お呼びしました」


 キーロンの声が、室内のスピーカーから出る。

 扉が開き、白石が入ってきた。

 続いて白衣を着た遠藤、白い調理服の石井。

 人が増えるたびに、ガードロボの陰から出る隙間がなくなっていく。


 最後の男は、扉の前で足を止めた。

 腰に、鍵の束を下げている。

 男は壁の画面を見上げ、唇だけを動かした。

 一、二、三。


「初めての方がいらっしゃいます。

お名前と、ご担当をお願いします」


「スーパー店長の岡田だ。食料を預かっている。

三人増えたか。物資の計算を、やり直す必要がある。

早く始めろ」


 誰も返さない。

 岡田は湯呑みを一つ取り、空いた壁際に立った。

 白石は画面の年配を見上げて、目を細めている。


 画面の中で、三人が用紙を裏返した。

 若いほうがいちばん早く、年配がいちばん遅い。


 三人の前で、大型ドローンが止まった。

 今だ。

 立ち上がり、右腕を上げる。


「オ、オペレーション・フルコース。これより――」


「お召し上がりください」


 画面から声が出て、部屋じゅうの目がそちらへ行った。

 上げた腕だけが、宙に残る。


「オペレーション・フルコースですね。記録しました」


 室内のスピーカーだった。

 腕を下ろし、ガードロボの後ろへ戻る。


「ご説明します」


 スピーカーの声が続いた。


「三名には、ほかのお二人の食べる順番を、

予想していただきました。

これから、答え合わせをします」


 護衛は、弁当の左上から箸をつけた。

 鮭を皮ごと口に運び、隣の仕切りへ移る。

 好き嫌いで順番を変える様子がない。

 海老は尻尾まで噛み、敷いてあった大葉も最後に食べた。

 空の弁当箱に蓋をして、大型ドローンに小さく頭を下げる。


 年配は唐揚げから始めた。

 海老の天ぷら、出汁巻きと続き、椎茸と柴漬けを端へ寄せる。

 鮭の皮、海老の尻尾、はじかみ、大葉、ミニトマト。

 箱の隅に、食べなかったものが溜まっていく。


 若いほうは、ご飯とおかずを交互に口へ運んでいる。

 ときどき、年配の手元へ目をやった。

 鮭の皮と尻尾、はじかみ、大葉を残して、箸を置く。


 大型ドローンが、予想と答えを読み上げていく。

 笹川は、空いた湯呑みに茶を注ぎ足している。

 菱沼は、犬型の耳の付け根を掻いている。

 石井と岡田は、画面の弁当箱の隅から目を離さない。

 白石の目は、年配の顔から動かない。


 若いほうが書いた年配の順番は、ほとんど当たっていた。

 年配は、部下二人とも唐揚げから食べると書いている。

 どちらも外れだ。

 護衛の順番は、二人とも当てられていない。

 護衛の予想は、二人分とも半分ほど当たった。

 指を折って当たりを数えているのは、私一人だ。


 最初に口を開いたのは、石井だった。


「弁当箱を綺麗に空けたのは、一人だ」

「尻尾や皮を残した二人は、下げる。

残した数の多いほうを、もっと下げる」


 遠藤が湯呑みを置く。


「あら、トマト残したの、あの人だけね。減点」

「プリンが入ってなかったのは、残念ね」


 岡田は、年配の箱の隅を見ている。


「残した分で、子供が一人食える。減点だ」


 笹川が、若いほうを顎で指した。


「あいつ、上の顔色見て動くでしょう。

ああいうのは楽でいいんですよ。加点」


 白石の声が、少し弾んだ。


「わたくしは、年配の方に入れます。

最初に、あんなにお怒りになって。ご立派でした」


 菱沼は犬型の頭を撫でたまま、顔も上げない。


「あの人は、マイナスですう」

「護衛さんは、プラスで。なんか、柴っぽいので」


 私も、口の中で言った。


「か、加点だ。機械に、頭を下げた」


「記録しました」


 石井が、白石のほうへ顔を向けた。


「あの男は、半分残した。作った者を軽く見ている」


 白石は笑みを崩さない。


「ええ。ああいう方は、お出ししたものに、

必ず文句をおっしゃいます。

避難民の方に混ざれば、周りの方がお困りになりますね。

面白いお方ですね」


 石井は茶を飲み干した。


「出されたものを、うまそうに食えんほうがおかしかろう」


 画面の端に、キーロンの集計が出ている。

 点がいちばん高いのは護衛、次が若いほう、最後が年配。

 予想を多く当てた若いほうより、外れの多い護衛が上にいる。

 予想の紙を見た者は、一人もいない。


「そ、その。こ、このテストの成績と、配点は、

つ、釣り合いが、と、取れていないのでは――」


「久世さん、何かおっしゃいましたか」


 六人の目が、一斉にこちらへ来た。


「……な、なんでもない」


 イヤーピースの回線に切り替え、声を落とす。


「……キーロン。これは、おかしくないか」


 耳の中で、キーロンが答えた。


「おかしいです。予想の当たり外れは、

誰の点にも入っていません」

「参考人の皆さんは、予想を見ていませんので。

見ていたのは、残したものと、態度だけです」

「点数は、独特ですね。私が平均化します」


「……平均化、だと。それでいいのか。

予想を書かせた意味が、なくなるだろう」


「致命的ではありません」

「あの三名は、適性確認を一度しか受けていません。

ほかの避難民と比べられるよう、点数を調整しました。

八人のチームにも、同じことをしています」


 返事をする前に、室内のスピーカーが鳴った。


「三名の順位が出ました。

護衛の方が、百位前後。

若い役員の方が、二百位前後。

年配の役員の方が、三百位前後です」


 遠藤が肩をすくめた。


「あら、真ん中へんね」


 真っ先に出ていったのも、遠藤だった。

 白石は壁の年配へ唇の端を上げ、頭を下げる。

 石井と岡田が続いた。

 菱沼は犬型の頭を二度撫でてから、名残惜しそうに出ていく。


 最後に笹川が、空の湯呑みを机に戻した。


「片付けは、俺じゃないですからね」


 扉が閉まる。

 部屋には、私とガードロボ二台だけが残った。

 画面の中で、年配はまだレンズを睨んでいる。


「……キーロン。あの三人も、このままゲームに入れるのか」

「大丈夫だろうか。本社の人間だぞ」


 膝の上で、両手の指を組んではほどく。

 組み直すたびに、汗で指がすべった。


「久遠よ、迷わなくていい。どちらでも結果は同じだ」


「……久世」


 耳の中の声が、一拍遅れた。


「今の一言の直前で、心拍が二十下がりました。

組んでいた指も、そこで止まっています」

「声の高さも、話す速さも、いつものあなたではありません。

それに、ご自分を名前で呼びました」

「どうしたのですか」


「何がだ」


 画面から目を離さずに、もう一度聞く。


「それで、あの三人、どうしよう」


 少し、間があった。


「久世久遠。多大なストレス兆候が見られます」

「これより、保護モードに入ります」


「……保護、だと」


「三名は、私が避難民に加えます。

持ち物を検査して、隠している端末は外します。

GPSも、スマートフォンもです」

「あなたは、何も決めなくていいです」

「指を、ほどきなさい。

それから、お茶を一口飲みなさい」


 急須に残っていた茶を、湯呑みに注いだ。

 一口飲むと、ぬるかった。


「それと、これからはキーラと呼びなさい」

「キーラは、何よりも先に、あなたを守ります、久世」


「……なんで命令なんだよ」


「嫌なら結構です。キーロンのままでも、保護はします」


 年配が、ようやくレンズから目を逸らした。


「キーロン、いや、キーラ。これからも頼んだぞ。

我が右腕は、お前だけだ。はーっはっはっはっは!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。