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第九話 生かすための配電

「全員を助ける、という条件では派遣できません」


救護会社メディカル・アークの営業部長は、契約書を閉じた。


月額六百万円。


治療師二名と救護員四名。


ただし、同社と契約している探索団を優先する。


白石律は契約書を返した。


「では、依頼しません」


「第五層へ常駐できる人材は、ほかにほとんどいませんよ」


「承知しています」


営業部長が去ったあと、三人の応募者が入ってきた。


片瀬美冬。元治療師。


安西孝志。元救護員。


笹木悠斗。元通信担当。


全員、メディカル・アークを会社都合で解雇されている。


片瀬は重症者を見ると、ほかが見えなくなる。


安西は一人を運び始めると、周囲の確認が抜ける。


笹木は危険を感じると、根拠を説明できなくても撤退を進言する。


過去の誤報による損失は一千二百万円。


律は資料を閉じた。


「三人とも、不採用です」


片瀬の顔が強張る。


「一人ずつ配置する場合は」


律は別の契約書を三人へ配った。


三十日間の試験雇用。


片瀬は処置担当。治療の優先順位を単独で決めない。


安西は単独搬送を禁止。移動前に人数を確認する。


笹木の違和感は削除せず記録する。ただし即時撤退には二人目の同意か、明確な異常を必要とする。


「三人なら、欠点を互いに確認できます」


片瀬が契約書を見た。


「私たちは部品ですか」


律の手が止まる。


「違います」


「でも、組み合わせれば使えるってことですよね」


「組み合わせを拒否する権利があります。道具にはありません」


契約解除は一日前の通知で可能。


失敗を隠さなければ、失敗そのものを解雇理由にしない。


記録改ざんと無断単独行動だけは即時解除。


最初に署名したのは笹木だった。


「外れた違和感も、残していいんですね」


「次に同じものを見た時、外れたと判断する材料になります」


安西、片瀬も続いた。


     ◇


六日後。


入口の警報が鳴った。


《金獅子》の城戸征司が、血まみれの榊玲奈を抱えて飛び込んでくる。


「毒だ。黒針蜂」


榊の腹部は黒く変色し、呼吸は浅い。


後ろには、肩を裂かれた団員がもう一人いた。


片瀬は榊へ走る。


「中和剤。冷却最大」


安西が二人目を支えたまま叫ぶ。


「こっちも出血してます」


片瀬の視線は榊から動かなかった。


面接で確認した欠点が、そのまま出た。


律は二人目の傷を確認する。


動脈ではない。


「安西さん。圧迫を継続。笹木さん、地上搬送を二名で要請」


冷却器が警告を出した。


予備魔石では、毒の進行を止める温度まで下がらない。


城戸たちが持ち込んだ金属箱の中で、赤い結晶が脈打っていた。


火脈結晶。


査定額、八百万円。


依頼企業の監督員が箱の前へ立つ。


「使うな。会社の所有物だ」


片瀬が振り返る。


「魔力を抜ければ冷却器を動かせます」


「壊せば資産価値が落ちる」


「榊さんが死にます」


監督員の主張にも根拠がある。


救命備蓄の使用は認められているが、依頼品の破壊までは契約にない。


城戸が言った。


「白石。最初に約束した一千万円を保証へ回せ」


補給拠点を使える状態にする。


その約束が果たされた時に払う報酬だった。


「足りない分は金獅子が負う」


律は結晶を測定した。


中心核まで壊せば必要量は出る。


外周だけなら足りるか分からない。


「片瀬さん。必要量を幅で」


「最低三十五。安全圏は五十」


律は外周へ切断工具を入れた。


一度で亀裂が走った。


想定より脆い。


残った結晶を冷却器へ接続する。


出力、四十二。


「これ以上割れば、価値はほぼ残りません」


「四十二でやります」


片瀬が薬剤を投与する。


毒の進行は遅くなったが、止まらない。


追加投与へ手を伸ばした片瀬を、安西が止めた。


「その量だと搬送中に呼吸が落ちます」


「毒が先に回る」


笹木が地上班の到着時刻を読み上げる。


「あと八分。経路異常なし」


片瀬は薬剤を半量へ戻した。


一人で決めなかった。


十秒後。


榊の心拍は、ぎりぎり正常域へ戻った。


二人目の止血も間に合った。


翌朝、二人とも生存が確認された。


火脈結晶は半値以下。


依頼企業は三百五十万円の損害を主張し、同額の供託を要求した。


城戸は約束した一千万円を送金した。


そこから供託、設備修理、薬剤補充、給与と保険を分ける。


自由に使える金は二百八十万円。


運転資金は四十三日分。


片瀬が治療記録を持ってきた。


「私、また最初に一人しか見てませんでした」


「はい」


慰めも、解雇もなかった。


律は記録欄を一つ増やした。


――治療開始前に、負傷者総数を声に出す。


三人はまだ優秀な救護班ではない。


欠点が消えたわけでもない。


ただ、欠点を一人で抱えた時より、一人多く救えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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