↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/42

第三十四話 回収員がいなくても、返せる

事件から三日後、白石律は遺品回収員なのに遺品を返せなかった。


資格そのものを失ったわけではない。


二級資格は有効。


ただし自分で失効させた電子署名の再発行と、C―0による認証悪用の監査が終わるまで、正式な回収完了、返却確認、放棄受領の処理を禁止された。


期限は未定。


探索者協会の窓口で、赤坂が書類を置く。


「自分で鍵を折る奴は初めて見た」


「折らなければ十一人の回収処理に使われました」


「分かってる。だから処分じゃなく停止だ」


律は書類を受け取った。


特異遺品回収の初期報酬三百万円は支払われる。


原因特定の追加七百万円は保留。


C―0の用途は判明したが、作成者と現在の運用主体が不明だからだ。


以前なら金額と運転資金日数を計算した。


今回は紙を鞄へ入れた。


壊した妹のライトの破片も、同じ鞄に入っている。


赤坂が言う。


「もう一つ。特異遺品回収班は解散しない」


律が顔を上げる。


「班長の正式処理権限がありません」


「だから現場判断と法的処理を分ける」


新しい編成表。


現場責任者、白石律。


記録・返却処理担当、別途協会職員。


森下の名前もある。


三級遺品回収員の実地研修候補として。


「本人が希望した」


赤坂が言う。


「あなたの補助じゃなく、自分の回収記録を持ちたいそうだ」


律は編成表を閉じた。


第五層北部の救助所へ戻ると、蓮見が入口で待っていた。


「おかえり」


「戻りました」


「右腕、悪化したって?」


「医師から追加で二週間固定と言われました」


「自業自得」


「はい」


蓮見はその返事にため息をつき、壊れたライトの袋を見た。


「それ、直す?」


律は少し考える。


「直しません」


「証拠だから?」


「違います」


蓮見は続きを待った。


「壊したのは私です。壊れた状態まで残します」


「そっか」


それ以上聞かなかった。


救助所は律がいない間も動いていた。


片瀬が二人を治療し、安西が搬送経路を組み、笹木が一件の誤報を早めに出した。蓮見は冷却設備が使えないまま受け入れ上限を下げ、久我の不在中は訓練を止めた。


誰も律の許可を待っていない。


その日の夕方、最初に届いた十二個の未来遺品袋の処理が始まった。高瀬は三田村の代替回収対象であり、この十二個には含まれない。


律は立ち会うだけだ。


一人目は保管を希望。


二人目は複製装備の研究提供。


三人目は廃棄。


三田村は破壊を希望した。


正式担当が確認を取り、森下が横で記録する。


律は手を出さない。


三田村の番が終わった後、彼は出口で止まった。


「右手、前衛は無理だってさ」


律は何も言えなかった。


「協会の訓練担当から、後衛の装備評価をやらないかって来てる」


「受けるんですか」


「まだ決めてない」


三田村は固定された右手を見る。


「お前を許すかも、まだ決めてない」


「はい」


「でも、死んだことにはされたくない」


「はい」


三田村は帰った。


謝罪は受け入れられていない。


関係も戻っていない。


それでよかった。


夜。


高瀬が救助所へ来た。


倉橋と榊も一緒だった。


高瀬は律を見て、丁寧に頭を下げる。


「初めまして、でいいんですよね」


律は一瞬だけ迷った。


「はい」


「俺、あなたに助けられたって聞きました」


「遅れました」


「覚えてないんで、判断できません」


高瀬は笑った。


「だから今は、お礼も恨むのも保留にします」


榊が横で腕を組む。


「それでいいよ」


律も頷いた。


高瀬の二年間は戻っていない。


それを成功の数字へ入れてはいけない。


同時に、生きている事実を損失だけで塗りつぶしてもいけない。


律は初めて、結果を一行へまとめなかった。


翌朝。


探索者協会から新しい依頼が届いた。


第五層北部救助所を中心に、第六・第七・第八層の救助所と回収班を接続する実証計画。


事故後に回収するのではなく、事故前の装備故障、撤退判断、救助経路を共有する仕組み。


成瀬航の名前も共同審査側にある。


律がずっと考えていたものに近い。


遺品を正しく返す仕事。


その先にある。


遺品を作らない仕事。


ただし今の律には、正式な遺品返却の署名すらできない。


森下が依頼書を覗き込む。


「行きます?」


「あなたは?」


「自分で決めます」


「そうしてください」


久我が奥から声を飛ばす。


「その前に右腕治せ」


蓮見も続ける。


「あと、うちの設備を勝手に持ち出さない」


片瀬は治療室から顔も出さずに言った。


「患者を連れてくるなら先に連絡してください」


律は三人へ返事をせず、依頼書を読んだ。


誰も命令を待っていない。


だから次へ行ける。


遺品回収員がいなくても人を救える場所を一つ作った。


次は、遺品そのものが生まれにくい仕組みを作る。


その前に。


自分が失った署名を取り戻さなければならない。


白石律は依頼書を閉じた。


最初の十二人の名が書かれた黒い袋は、最後まで誰の遺品にもならなかった。


ただし、失ったものまで戻ったわけではなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になった方は、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。