第三十三話 遺品にならなかった十二人
C―0中枢は、一撃では止まらなかった。
久我の槍が核へ刺さった瞬間、施設全体の非常電源が起動した。
十五年間、自分が壊されることまで想定していたらしい。
防火扉が閉まり、回収台が逆方向へ動き始める。
律を載せたまま。
「白石!」
久我が飛びつく。
左肩が動かず、指が帯を掴み切れない。
森下が反対側から固定具を引く。
「自分で外してください!」
「右腕が使えません」
「知ってます!」
森下は工具を律へ投げた。
左手で受け取る。
胸の固定具は旧式だった。
規格は知っている。
だが精密作業は禁止されている。
指が震える。
一度、工具が落ちた。
森下が拾おうとする。
律は先に足で止めた。
「自分でやります」
二度目。
留め具が外れる。
回収台が開いた搬送口へ入る直前、律は床へ転がり落ちた。
右肩を強く打った。
久我が襟を掴んで引く。
「治るもんも治らなくなるぞ」
「今のは私の判断です」
「知ってる」
中枢の画面が一枚ずつ消えていく。
森下が最後に表示された接続先だけを声に出して覚えた。
第十二層。
管理系統名は消えた。
作成者名も消えた。
それ以上は残せない。
久我が二撃目を入れる。
核が割れた。
全階層へ伸びていた回収命令が停止する。
第七層の未来遺品袋。
第九層の保全槽。
各階層の回収機。
全てが沈黙した。
律の端末は認証失効済みで、協会回線へ正式には入れない。
森下の端末に、地上から通知が殺到する。
十一人の生存確認。
三田村遼、生存。
高瀬拓真、生存。
十二人全員。
森下がその一覧を見て、笑った。
「これ、記録していいですよね」
律は少し考えた。
「本人が拒否しなければ」
「面倒になりましたね」
「はい」
「前より」
「はい」
久我が笑う。
施設を出るまで二時間かかった。
地上へ戻った時、十二人のうち七人が第七層入口へ集まっていた。
残りは治療中か、移動不能。
透明な証拠容器に入れられていた未来遺品袋が並んでいる。
三田村もいた。
右手には厚い固定具。
律を見ても近づいてこない。
謝罪する機会ではない。
律も近づかなかった。
協会職員が尋ねる。
「この袋、どう処理しますか」
誰も死んでいない。
中身は現在の装備を複製したもの。
所有権も成立していない。
遺品ではない。
以前の律なら、自分が処理区分を決めただろう。
今は資格認証が失効している。
「私には正式処理権限がありません」
職員が困った顔をする。
森下が手を上げた。
「現物保全と本人確認だけなら、協会職員としてできます。返却も廃棄も決めず、本人ごとに意思確認を取ります」
律は何も訂正しなかった。
三田村が森下へ言う。
「俺のは壊してくれ」
「複製手甲ですか」
「あれ見てると、右手がまた締まる気がする」
森下は即答しなかった。
「正式処理ができる担当を呼びます。でも、その希望は先に記録します」
三田村は律を一度だけ見た。
「そいつより話が早いな」
皮肉ではなかった。
律は「はい」とだけ答えた。
高瀬は医療区画にいる。
二年分の記憶は戻っていない。
倉橋が隣に座り、初対面から説明し直しているという。
榊はそこへ向かった。
城戸は入口の壁にもたれていた。
律が近くを通ると、声をかけた。
「止めたのか」
「中枢は破壊しました」
「証拠は」
「大半を失いました」
城戸は少しだけ笑った。
「今度は捨てられたな」
「はい」
「だからって、俺がお前の班に入る話にはならない」
「分かっています」
「次に玲奈を後ろへ置いたら、また殴る」
「それは困ります」
初めて城戸が律の方を見た。
関係は戻っていない。
だが完全には切れていなかった。
探索者協会はC―0系統を全階層で緊急停止した。
ただし第十二層へ残った接続先の正体は不明。
作成者も。
五年前、三年前、現在、それぞれ誰が命令を通したのかも分からない。
未来遺品事件は止まった。
C―0そのものは終わっていない。
それでも十二人は、生きたまま自分の名前が付いた袋の前に立っている。
遺品にならなかった人間が、十二人。
律には、それで十分だとは言えなかった。
だが失敗だとも書けなかった。
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